すずむら | ナノ



こんなに恋に溺れてるのは初めてだ。


はまっていく感覚に戸惑うけどこわいとは思わないし
むしろもっと溺れてもいい、
と思うくらい彼が好き。




『昔はほんまにモテてたなー!バレンタインなんか紙袋は必需品やったし』


「だったら今のほうがすごいんじゃない?紙袋じゃ足りないでしょ、絶対」


『量的にはな。でもあの頃貰ったやつはほぼ本命やで?ちゃんと返したことなかったけど…つくづく罪な男やで俺』


「ほんとだねーさすがだわ。サンガの看板選手は違うわー」


『ちょ、投げやりすぎやない?シゲちゃん泣いてまうで?』



泣きたいのはこっちだ。
彼氏の過去のモテ話なんか素直に聞けるほど大人じゃない。

久しぶりの彼の休み。
突然始まった過去の恋愛話に
後ろから抱きしめられつつ
投げやりな返事を返していた。



シゲが初めて付き合う相手は
出来れば私であってほしかった。
(絶対無理なのは分かってるけど)

私は今まで付き合ってきた人の中でシゲが一番好きだ。

だからシゲにも歴代の彼女の中で私が一番好きだ、と思ってほしい。

それほどまでに彼に惚れている。


だからこそ、過去の人と張り合ってみたり、自分と比べて勝手に不安になる。



「ねえシゲ?」


『ん?どうしたん?』


「今までどんな人と付き合ってきたの?聞きたい」


『…それ聞いてどないすんの?』


「別にどうする訳じゃない、けど…シゲのこと、もっと知りたいの」


不意に出た質問にシゲは少し困った感じの、微妙な顔をした。

それもそうか、シゲは自分のことを話さないし聞かれるのも好きじゃない。
加えてこんなどう答えたらいいのか分からない質問だ。
困った顔にもなるだろう。

質問をした私自身、どう言ってほしいのか分からなかった。
でもどうしても言ってほしかった。
私を安心させてくれるような一言を。


少し考えるような仕草のあと、にかっと笑って

『初めてや』

と言った。


「…初めて?それって、どういう」


『やから、なまえが初めて付き合った人や、って言うてんの』


「う、嘘だよそんなの」


『嘘やない。こうして誰かを抱きしめるのもキスするのも、それ以上だってなまえが初めてや』


「シゲ…」


『こんな男前のハジメテを独り占めやなんて…ラッキーやななまえちゃんは』


「…うるさいばか」


『ちょ、関西人にばかはあかん!そんなこと言う子にはこうやっ!』


そう言うとシゲの手は
私のお腹から脇腹へと移動し
くすぐり始めた。


「?!ちょ、やめ…あはははは!ごめ…も、ばかは言わないから!やめてーっ!」


『あかん!反省の態度が見られへん』


「反省してるっ…て!ふはっ、ごめん!ごめんなさい!シゲ!」


しばらくくすぐられて
ぐったりしてきた頃、
突然抱き上げられ
シゲと向かい合わせにされた。


『なまえ』


「なに?」


『最初より最後のほうが記憶しやすいと思わん?』


「え、何の話?まあ確かにそうだけど」


『大事なのは最初誰だったか、じゃなくて最後誰だったか、やろ?』


「…うん」


『なまえは、俺にとって最後の人や。なまえもそうやろ?』


「…もちろん。一生シゲだけが好き」


『俺もや。…愛してんで、なまえ』



いつもは掴み所がないくせに
大事な所はちゃんと決めてくれる。
私が一番欲しい言葉をくれる。

やっぱり彼から抜け出すなんて出来そうにない。
まあ、抜け出す必要もないけど。


唇が重なっている間、そんなことを考えた。



<金色に溺れる>


――――――――――

うーん…
深夜の勢いってこわい!(笑)
ごめんなさい!ありがとうございました(^q^)