すずむら | ナノ



※成人設定



仕事で疲れた身体を引きずるようにして
駅の改札を通る。
ここまで来れば家まであと少し、頑張ろう、と意気込み顔を上げると雨が降っているのに気付いた。
今日は一日中雨なのは知っていたが
帰る頃には止んでるだろうと
若干期待していたけれどダメだったみたいだ。

乾かすのが面倒だからあまり使いたくない折り畳み傘を使おうと鞄から出したところで
「なまえ」と呼ばれた。


「あれ、どうしたの由孝」

「雨降るって言ってたのに
おまえ傘持たないで出たろ?
だから優しい由孝くんはなまえが雨に濡れないように迎えに行ってやろう、と…」


そこまで言ったところで由孝は私の手にある折り畳み傘に気付いた。


「…」

「…」


数秒の沈黙の末、私は広げようとしていた傘をそっと後ろに隠すようにし「…見た?」と聞いた。
暗いのでうっすらとしか分からないが
由孝の顔が赤く染まっていく。


「お、まえ…持ってるなら言えよ…」

「だって迎えにくるだなんて思わないもん。ていうか連絡してよ」

「こういうのはサプライズでやるからいいんだろ!?」

「誰に教わったのよそんなこと」

「うるさい!いいからおまえは俺の気遣いと優しさを返せ!」


まったく…と赤くなった顔で拗ね出した残念な恋人が愛しくて。
後ろに隠した傘を手早くたたみ鞄の中にしまう。

訝しげな顔をする由孝に少し笑って「傘、持ってくるの忘れちゃったから入れてほしいなー」と言う。


「…どうしてもか」

「どうしても!由孝くんの傘に入りたいなあ」

「……仕方ない。そこまで言うなら入れてやろうじゃないか」

「やった!由孝くんやっさしー!」

「今回だけだぞ?」

「ふふ、はーい」


と言って黒い傘の中に入り、肩を並べて歩き出した。



<はんぶんこ>

(ねえ由孝〜?)
(ん?なんだなまえ)
(傘ふらふらさせないでしっかり持って。
あと濡れるからもうちょいこっち傾けて)
(…すいません)



―――――――

帰宅中思い付きました。
そしてこれを書いてる間に雨が止みました。


読んでくださってありがとうございました!