すずむら | ナノ



その一言が聞きたくて。








「…みょうじみこりん好きなの?」


「はい?」



ある日のこと。
部活の準備をしていたら
体育館に入ってきた宮地先輩に
開口一番そう言われた。



「みこりん、って誰ですか?」


「おま、みこりん知らねえとか…ないわ。
俺の推しメン!」


「推し…?あ、アイドルの子か。
あのグループ人数多いから
皆同じに見えるんですよね」



と言い終わると同時に頭に乗っかる先輩の手。



「よーしみょうじもう一回言ってみろ」


「いた、痛い!痛いです先輩頭割れる!」


「割れろ!みこりんを侮辱した罪の重さを思い知れこのバカ」


「ごめんなさい!もう言わないから離してください!
ていうか宮地先輩がみこりんってきも…あー嘘です嘘ですから力込めないでくださいほんとに割れる!」



必死に言うと先輩はちっ、と舌打ちをし渋々手を離した。

今後宮地先輩の前で
アイドルのことを言うのは
やめようと心の中で誓った。
あの力の込めかたは本気だった。



「そういえばなんでみこりん好きか聞いたんですか?」


「ああ、髪型一緒だったから。
みこりんもよくやってんだよそれ。
だからみょうじも好きで
真似してんのかと思った」


「へー…
どうですか?かわいいですか?」


「みこりんの方が100倍かわいい」


「即答…しかもそこまで言います?
普通もうちょっと気遣いません?」


「みょうじに遣う気なんかねえよ」


「……宮地先輩のドルオタ」


「おまえはそんなに俺に頭割ってほしいのか、そうかそうか」


「だってほんとのことじゃないですか!痛い、痛いです先輩もうやばいですごめんなさいっ!」



そんな風にしていると
「ちわーっす」という声と共に
高尾とそれに続いて緑間がやってきた。



「2人とも何じゃれてるんすかー?
俺もまぜてくださいよー!」


「じゃれてねーしまぜねえよ埋めるぞ」


「相変わらずつれないっすねー…
ん?あ、みょうじそれ!」



高尾が宮地先輩にフラれたところで、今度は私を見て何かいいものを見つけた顔をした。



「それって?どれ?」



私がそう言うと高尾は楽しそうな顔で、爆弾を落とした。



「髪型だよ髪型!うまく出来てんじゃん!
それみょうじがいつもチェックしてるアイドルの子のブログに載せてたやつだろ?
みこりんだっけ?
同じ髪型したいっつって練習してたもんな!
つーかみこりんって宮地サンの推しメンだろ?おまえも健気だよなー…ってぇ!何だよ緑間」


「ハァ…だからお前はダメなのだよ高尾。行くぞ」



べらべらと喋る高尾を黙らせ、体育館を出る2人。
緑間の思わぬ優しさにびっくりするが、できればもう少し早くそうしてほしかった。
隠しておきたかったことはすべて聞かれてしまった今、2人きりは逆に酷だ。

高尾のばか、緑間のばか、と心の中で罵る。
そして先程から何も言わない宮地先輩のほうを見ると、ニヤニヤした顔と目が合った。



「…なんですか」


「いや?別に?」


「……」


「…みょうじさあ、」


「みこりんのこと、知らないんじゃなかったっけ」


「わ、私そんなこと言いました?」


「言ってたなーはっきりと。
興味もないです、って感じで」


「ちょっと記憶にないですねー…はは…」


「ブログもチェックしてた上に髪型も練習してたんだってな?」


「それは…その…なんていうか…」



口ごもっていると「なぁ」という声に続いて引き寄せられた。



「っちょ、宮地せんぱ」


「なんでそこまですんの?」


「だから、別にっ」


「みょうじ、答えろ。
なあ、なんで?」



真剣な瞳に見つめられて息が詰まる。
逃げられそうにないなと悟った私は顔が熱くなるのを感じながら叫ぶように言った。



「…先輩が好きな子に少しでも近付きたかったんですよ!
か、かわいいって言ってほしかったんです!
っもう!先輩のばか!」



最後に悪態をついて、もう少しで部活が始まる体育館を猛ダッシュで出た。

これからどうやって接しようとかばかって言っちゃったとか色々思うことはあったがとりあえず、しばらく高尾の分のスポドリだけ極限に薄くしてやろう、と決めた。




<あの子になりたい!>
(かわいいって言ってほしい)



(うーす…ってどうした宮地。ニヤニヤして)


(おー木村。いや…かわいいやつだなーと思って)


(ああ、みこりんの話か。はいはい)


(ちげーよばか刺すぞ)



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宮地が推してるアイドルになりたい(真顔)

ありがとうございました!