すずむら | ナノ



『…続いて今日のお天気です!
今日は午後から雨の恐れが…
帰りが遅くなる方は傘を持ってお出かけくださいね!』


「…よし」


―――――――――







予報通り降りだした雨。
肌寒い空気の中、私の身体は風邪を引いたのではないかという程熱かった。



「悪いななまえ。
雨降るの知らなかったんだ」


「いいです…けど、天気予報見なかったんですか?」


「寝坊してテレビ見てる暇がなかったんだよ」


「そ、そうなんですか…」


「…なんかなまえ今日静かだな。
どうかしたのか?」



誰のせいだと思ってるんですか、とは言えず
はあ…と曖昧な返事をしつつ俯く。

付き合い始めて日も浅い上に
なかなか2人で過ごすこともなく
若干物足りなさみたいなものを感じていた矢先にこれだ。
突然すぎて心の準備などする暇もなかった。


狭い傘に入ろうとすると触れてしまうしっかりとした腕。
そっと顔を上げれば、いつもより近くにある整った横顔。

何よりもこの雰囲気を意識してしまってうまく頭が回らない。


そんないっぱいいっぱいの私とは裏腹に
先輩は、今日笠松と黄瀬がさ…といつものように話している。

やっぱり慣れてるのかなあ、と
少し寂しい気持ちを抱えつつ
先輩の話に耳を傾けた。




駅のホームに着くと発車直後なのか
ほぼ人がいない状態だった。

ベンチに腰掛けつつ先輩が口を開く。



「今日ほんとごめんな」


「何がですか?」


「傘、狭くて嫌だったろ。
口数も少なかったし」


「あ、いや、あれは…その、」



緊張してましたと言うのは
なんとなく悔しくて
口ごもっていると
先輩は「ん?」と言って
顔を覗きこむようにして近付いてきた。



「っちかく、ない、ですか」


「なまえがちゃんと答えたら離れるさ。
なぁ…俺との相合い傘、嫌だったか?」


「っ!」



私がなんて答えるか分かってるのに聞いている。
ずるい。やっぱり敵わないなと思いつつやけくそで答える。



「嫌、じゃなかったです…
口数少なかったのは…緊張、してて」


「…ふ、知ってる。
顔真っ赤だったもんな」


「し、仕方ないじゃないですか!
先輩が慣れすぎなんですよ!」


「慣れてる?俺が?」


「そうですよ!
私はいっぱいいっぱいなのに
先輩は余裕で…悔しいです」



そこまで言うと先輩が急に静かになった。
何か変なことを言ってしまっただろうか
と考えていたら先輩の手が頬に触れ、上を向かされる。



「慣れてるように見えてたなら良かった。
けど俺もいっぱいいっぱいだったし…緊張してたよ、朝から」


「え?朝からって…」



どういうことですか、と続けようとした言葉は飲み込まれた。

一瞬なにが起こってるのか理解出来なかったけど
頬に乗る手の冷たさと
唇に伝わる熱を感じ、
キスされてるんだと気付いた。


唇が離されそっと目を開けると、
優しい瞳をした先輩と目が合った。

瞬間、突然恥ずかしくなり
今までにないくらい顔が赤くなるのが自分でも分かった。
すると先輩は少し笑って私の頭を撫で



「計画成功、ってな。
じゃ、また明日」



と言いいつの間にか来ていた電車に乗り帰って行った。

残された私は
やられた、という思いと
どこからが計画かを考えるのに必死で赤くなった先輩の顔を見ることなく一人頭を抱えていた。





<天気予報は、午後から雨>
(傘は持たずに行こう)



――――――――――――

この後我慢出来なくなった森山は
最寄り駅に着いた瞬間
雨宿りがてら笠松さんに電話し
彼女とちゅーしたんだ!聞いてるか笠松!
といったノロケを延々として風邪を引きます。残念。

ちなみにヒロインとは家が逆です。


にしてもなげえ!
すいません、ありがとうございました!