すずむら | ナノ



その人に会ったのは、帝光の理念に疑問を感じ始めて間もない頃だった。


いつもの様に圧倒的な点差をつけて勝った試合。
みんなに続いて自分も帰ろう、と歩き出した矢先


「ねえ、帝光の15番の人だよね?」

と話しかけられた。


「そうですけど…何か、用でしょうか」


制服を着た同い年くらいの人。
相手校のマネージャー、だろうか。


「いや、噂通りすごいプレーだなーって思って!
頑張って目で追うんだけど
すぐ見失うしさ!
それが悔しくて見入ってたら
先輩に怒られちゃったよー」


あはは、と言って笑うマネージャーさん(仮)
べた褒めされて悪い気はしないが
それを言う為だけにわざわざ追いかけてきたんだろうか。
不思議な人だ。


「…ありがとうございます。
すいません、いそ「でもさあ」…なんでしょう」


「やってて楽しかった?今日」


どくん。
核心を突かれた気がした。


「…楽しかったですよ。勝てましたし。
…どうして、そんなこと聞くんですか?」


「黒子くんを見てた間、すごいなーと思ったと同時にさ、なーんか悩みながらやってる感じがしたんだよね」


「…特に、悩みはないですけど」

これは本当だ。
理念に疑問はあるけど
悩みになっている訳ではない…はず。


「そっか。ごめんごめん!
じゃあさ、あと1つだけ。



…自分のチーム、好き?」


「…っ、もちろん、です」


「…だよね。ごめんね、引き留めて。
お疲れさま!」



即答出来なかった自分に腹が立った。
好きに決まっているのに。
嫌いになんか、なる訳がないのに。
チームも、バスケも。

いつの間にか、自分に言い聞かせるような思考になっていたのが、無性に悲しかった。




それから数ヵ月。
誠凛に入り、新しい光の影となり、試合も順調に勝ち続けて。

そして、都予選決勝。

試合前に何気なく秀徳のベンチを見ると


「…あ」
あの時のマネージャーさんがいた。
秀徳の人だったのか。
試合が終わったら話しかけてみようか。
でも、自分のことを覚えててくれてるだろうか。


「黒子くんどうしたの?
もうみんなコート行ってるわよ?」


カントクの言葉に我に返り
コートへと足を運ぶ。
そうだ。今は、目の前の試合に集中しなければ。
頭を切り替えポジションについた。



試合が終わり、店に行こうと
火神くんを背負い会場を出ようとしたら


「ねえ、誠凛の11番の人だよね?」

懐かしい声が響いた。


「そうですけど…何か、用でしょうか」

あの時と同じように返す。


「…!噂通りすごいプレーだなーって思って!
頑張って目で追うんだけど
すぐ見失うしさ!
それが悔しくて見入ってたら
「先輩に怒られましたか?」
…ふふ、今回は監督。
久しぶりだね、黒子くん。
覚えててくれたんだ」


忘れてる訳がない。
だって、あの日からずっと


「お久しぶりです。
忘れるはずないですよ。
初対面であんなこと言うのは
貴女だけですから。」

あの言葉が 頭から消えなかったから


「はは、あの時はごめんね。
…今日は、楽しかった?」


それと、

「…はい。とても。」

どうしても、貴女に言っておきたいことがあったから

忘れたことなんて、なかった。


「あの…」


「ん?なに?」


「大好きです。

チームも、バスケも。

もう、嫌いにはなりません」


彼女は少し驚いた顔を見せた後

「……そっか!良かった!
じゃあまたやろうね!
今度は絶対、負けないから」

そう言って微笑んだ。


「はい。次も、勝ちます」


「何言ってんの!
絶対うちが勝つんだから!
さ、そろそろ行くね!」


「あの!名前、聞いてもいいですか?」


「あれ…言ってなかったっけ?
ごめん!みょうじなまえです!

じゃあまたね黒子くん…火神くんも!
お疲れさま!」


「はい、なまえさんもお疲れさまでした。
今度はゆっくり、お話しましょう」


「うん!約束ね!」




―出来るならなるべく早く
「約束」が果たせるように祈った。




<あのときの返事>
(伝えられて、良かった)


―――――――

な が い …!
まとまりませんでしたごめんなさい(/ω\)

たまにはこんなんもありってことで!

ありがとうございました^^