「千春」
楽しそうな笑顔で私に手を差し出す遊戯の手を、こちらも笑顔で握り返す。
はろー、皆さんこんにちは。前回遊戯に拾われて武藤一族の仲間入りしました、小波千春改め武藤千春です。ずっと兄弟って憧れてたんだ、と照れくさそうに言われたその時、自分の心が陥落した音を私は確かに聞きました。
単純だって?ほっとけ!相棒の笑顔可愛いんだよ!
「ねえ千春、千春はデュエルモンスターズって知ってるかい?」
「知ってるー!」
デュエルモンスターズ、ですと!?ええ勿論知ってますともこの世界の秩序じゃないですか!
かくいう私もトリップしてこんな子供の姿になる前は嬉々としてデュエルモンスターズやってまして………あ、まだ学生だったせいでお金なかったんで、カードの方じゃなくてゲームの方ね。NTとかSSとかTFシリーズとかの方ね。カードも一時期集めてたけど………………うん。お小遣いの限界が、ね……。
まぁ、それでもちょっとだけ遊戯王かじってたよとは言えるレベルではある、と思う。うん。
「へーそっか!千春もデュエルできるの?」
「できる!できるけど、デッキもってないの」
だってゲーム派でしたから。
そこまでは流石に言わなかったけれど、私の言葉を聞いた遊戯はそっか、と微笑んで私の頭に手をおいた。
「じゃあさ、ボクのカード貸してあげるから、ボクとデュエルしてみない?」
「!」
ま じ で す か !
それ本気で言ってますかお兄さん!?
ああああの遊戯と、主人公様とデュエルが出来る…だと!?NTでダブル遊戯と初めてデュエルした時にさえテンションマックスだったのに、ままままままさかリアル遊戯、本物の遊戯とデュエルが出来る…だと…!!?
「ややや、やる!遊戯兄とデュエル、やる!」
「ははは、やる気満々だね。じゃ、ボクの部屋行こっか。好きなカード使ってもいいからね」
私幸せすぎて昇天しそう。
△▼△
「じゃ、千春のからデッキ組もうか」
大サービスですねお兄さん!
場所はリビングから移り、遊戯の部屋。
全体的に緑で統一された、いかにも学生という感じの部屋だ。
ちなみに私は、この隣の部屋を貰っている。以前から女の子も欲しかったというお母さまのお言葉をそのまま表したような、ピンクで統一された可愛らしいお部屋だ。………ちょっと目に痛いというのは黙っておくことにする。いやだって、あんな楽しそうにカーテンとかベッドとかカーペットとか選んでるの見ちゃったら…ねぇ?
私が自分の部屋と遊戯の部屋との差に少し遠い目をしていると、本棚から何冊ものカードファイルを引っ張り出してきた遊戯が、ベッドの上に腰を下ろした。
私もならって、ベッドに上って遊戯の向かい側に座る。
「さ、好きなの選んでいいよ」
…量が半端ないですね。
ぱっと数えただけでも、結構な厚みのあるファイルが、1、2、3………5冊ってあなた…。
やっぱり、本格的にデュエルモンスターズやってる人ってのは違うなぁ。私なんかソフト一つに約5000枚以上のカードデータが入ってましたからね…めっちゃコンパクトでしたからね…邪道だっただろうか。
思いながら、適当なファイルを一冊取って表紙を開いてみる。…………うん、わかってたけど、びっしりですね。
「効果がわからないカードとかあったら聞いてね」
ニコニコ笑う遊戯に頷き返し、私はぱらりとページを捲った。
あっ、クリッターみっけ。…クリッターと黒き森のウィッチを見つけた瞬間、ゲームで使っていたチートデッキレシピが頭をよぎったのは秘密だ。流石にね、それはね、ダメですよね。わかってますって。それぞれ三枚積んでさらに壺とか施し入れたエクゾディアデッキで闇のデュエリスト達をばんばん沈めてたのはここの私です。
―――そして、数十分後。
「…できたっ!」
合計42枚。
出来る限り私がかつて使っていたデッキと似たようなカードを入れて、似たようなものに仕上がっている、と思う。
…いや、一からデッキを作ろうとすると、間違いなく数時間はかかっちゃうし。流石にそれだけ遊戯を待たせるのは申し訳ないと言いますか……。
てか私、よくデッキレシピ覚えてたな。
「あ、出来た?結構早いね。じゃ、次はボクの番かな。……………!」
「…遊戯兄?」
出来上がったデッキを手にニコニコする私を優しい眼差しで見て、遊戯はシーツの上に散らばったカードに手を伸ばす。
が、不意にその動きを止めた。…一瞬、目を見開いたような気がする。
「…どうしたの、遊戯兄?」
「……ううん、なんでもないよ。じゃ、ボクもちゃちゃっと組んじゃうから、ちょっと待っててね」
…気のせいだったの、かな?
私の言葉に返事を返した遊戯兄はいつもの笑顔で、それから素早い手つきで残りのカードからデッキを組み上げ始めた。………そのスピードと言ったら、うん。私が数十分かかったところを、僅か数分で組み上げたあたり、手慣れてますね流石です。
「よし、じゃあ早速デュエルしようか!」
「うんっ、……手加減してね?遊戯兄」
本気出されたら間違いなく私負けますから。ええ間違いなく。
そんな私に、遊戯は「え〜、どうしよっかなァ?」なんて楽しそうに笑ってる。…うん、まぁ遊戯だもん、まさか幼女相手に本当に本気出したりはしない…よね?うん、しないよね?ね?
「ま、とにかく始めよっか!」
「はーい、じゃあいくよ遊戯兄っ」
「「デュエル!」」
遊戯【LP 2000】
千春【LP 2000】
「千春、先攻でいいよ」
「じゃあ遠慮なくっ!…わたしのターン!わたしは手札からモンスター一体を裏側守備表示で召喚しますっ!」
モンスターゾーンにカードを一枚セットする。
「さらに、二枚カードを場に伏せてターンエンド」
「ボクの番だね。ドロー!ボクは『巨大ネズミ』を攻撃表示で召喚。バトル!千春の守備モンスターを攻撃するよ!」
巨大ネズミ
ATK 1400
DEF 1450
遊戯の場に巨大ネズミが召喚される。
攻撃宣言を受けて、私は伏せていたカードをぺらりとひっくり返した。
「ごめんね、お兄ちゃん。…わたしが伏せていたのは、『ジェリーフィッシュ』だよ!」
「あっ!」
海月‐ジェリーフィッシュ‐
ATK 1200
DEF 1500
ジェリーフィッシュの防御力は巨大ネズミの攻撃力よりも若干高いので、この場合は返り討ち。
やっちゃった、と遊戯が悔しそうな顔をした。
遊戯【LP 2000→1900】
「あっちゃあ…先にLPを削られちゃったか…ボクは場に二枚カードを伏せて、ターンエンドだよ」
「ふふ、先攻は最初は守りに入るのが基本だからね!じゃーいくよ、わたしのターン!」
デッキの一番上から、カードを一枚ドローする。…お、これはなかなか。
「ちょっと待って、千春。ボクはここでトラップを発動するよ」
「えっ?」
「トラップカード『岩投げアタック』を発動!このカードは、自分のデッキから岩石族モンスター一体を選択して墓地に送ることで、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」
「えっ!」
千春【LP 2000→1500】
遊戯のトラップカードの効果で、私のライフが削られる。
ま…まさかこんな初っ端からトラップを使ってくるとは…。ううむ、私が伏せた二枚のカードはどちらもトラップの発動を防ぐものじゃないからな。
「…せっかく先にライフ削ったのに」
「あはは、ごめんね?」
可愛い顔してやりおるな…。
楽しそうに笑いながらカード効果でデッキをシャッフルする遊戯を見つめ、唇を尖らせる。
そして手札からモンスターを召喚しようとして、私はふと動きを止めた。
「…………あっ」
「?」
そういえば、今って時間軸どの辺りなんだろう。王国編前ならレベル5以上のモンスターの召喚には生け贄いらないんだよね…私、普通にいつものOCGルールでやろうとしてた。
「どうしたの、千春?」
「んー…あのさぁ遊戯兄、レベル5以上のモンスターって、普通に召喚していいんでしたっけ?」
「え?うん、いいと思うよ…?」
「生け贄っている?」
「い、生け贄?」
私の言葉に目を白黒させる遊戯を見てなんとなく理解した私は、にこっと笑って「んーん、なんでもないやー」と持っていたカードをフィールド上に出した。
この世界では、まだレベル5以上のモンスターの召還に生け贄を必要としていない。
…と、いうことは、まだこの世界は王国編の前か、もしくは直後なのか…いずれにせよ、未だバトルシティが開幕していないことは確かだ。
つ ま り 。
「わたしは『海の竜王』を攻撃表示で召還するよ!」
「えっ!?」
こんなことも、できちゃうわけでして。
にんまり笑って上級モンスターを召還した私に、遊戯は驚いて目を丸くした。
海の竜王
ATK 2000
DEF 1700
「いきなりそんな強いカード引いてたの?」
「ね、わたしも手札に来た瞬間びっくりしちゃった…ってことで、『海の竜王』で『巨大ネズミ』を攻撃!」
「わっ!」
遊戯【LP 1600→1250】
「ターンエンドだよ、遊戯兄」
「…千春、強いね。びっくりしたぜ」
「ふへへ、でもまだまだデュエルは始まったばっかだよ!」
「うん、そうだね!ボクのターン!ド――――」
言いながらデッキに手を伸ばした遊戯が、ふっと動きを止めた。
うん?と思わず首を傾げる。
「遊戯兄?」
どうしたの?そう続けようとした、その瞬間。
きら、と遊戯の首に提がっていた黄金の三角錘が、輝いた。
…えっ、ちょっと待ってまさか。
「……千春、ここからはオレが相手になるぜ!」
「(えええええええ!!?)」
闇遊戯出てきたあああああああああ!!?