古の因果は過去から今へと廻り廻って受け継がれ

やがて私は――――愛しき貴方の許へ舞い戻る

貴方が修羅の道を歩むというのなら

私はただ、その傍らに在りましょう――――























青眼の白龍。

その攻撃力はデュエルモンスターズの中でも最強と謳われ、美しいフォルムと世界に四枚しか存在しないという希少価値の高さから、多くの者を魅了し、虜にしてきた幻のモンスター。

海馬を守るようにフィールドに降り立ったその姿を見て、私は思わず身震いした。
王様も城之内も、信じられないものを見るような目で凝視していた。



「バカな…!!」

「じーさんのカードは、アイツが破り捨てたんじゃないのかよ!?」



その通り。
確かに、双六さんの『青眼の白龍』は、私たちの目の前で海馬自身の手により真っ二つに引き裂かれた。

だが―――



「『青眼の白龍』の攻撃!滅びのバーストストリーム!!!」



青眼の白龍の口から、青く輝く光球が放たれる。
それは絶対的な破壊力をもってして、暗黒騎士をいとも簡単に粉砕した。



遊戯【LP 1600→900】



「…ボクは欲しいものは必ず手に入れる主義でね。デッキには、後二枚の青眼の白龍がそろっている。お前に勝ち目はない」



その言葉に、王様の顔に焦燥が浮かんだ。
―――世界に四枚しかないという、青眼の白龍。
そのうちの一枚、双六さんが所持していたカードは海馬が無残に破り捨てた。
残る現存する三枚を、海馬はすべて所有していたのだ。


“デッキに入れられる同じカードは三枚まで”


あの時海馬が言った言葉の意味を、二人はここで初めて理解することになる。

自分以外に青眼の白龍を所持する人間がなくなるように―――
そのために、海馬は最後の一枚を所有する双六さんを呼び出し、カードを奪い、自らの手でその存在を抹消した。徹底的に。



「ンなのありかよ…!」

「……………」



これも、運命なんだろうか。宿命なんだろうか。
私はそっと青眼の白龍を見上げた。












デュエルは続く。
青眼の白龍の圧倒的な攻撃力の前に、王様は守備モンスターを並べて耐え忍ぶことしかできない。
どんなモンスターも、青眼の白龍の攻撃であっけなく散っていく。


―――そして。



「二枚目の『青眼の白龍』を引いた…」

「っ!」

「遊戯…!」



海馬のフィールドに、もう一体の青眼の白龍が現れる。
絶体絶命。まさしくそんな言葉が似合う状況に、王様は悔しそうに歯軋りをする。
余裕の表れなのか、海馬はそのターンを攻撃せずに終了した。
じわりじわりと王様の精神を追い詰め、いたぶっていくつもりらしい。…悪趣味な。



「じーちゃん…!千春…!オレは、オレは諦めない!!魔法カード『光の護封剣』!」



王様の宣言と共に、空から輝く光の剣が降ってきて、二体の青眼の白龍の動きを封じた。
『光の護封剣』。相手フィールド上のすべてのモンスターの攻撃を、3ターン封じる魔法カード。

これで、なんとか3ターン繋いだ。
そんな王様の苦肉の策を、海馬は鼻で嗤う。



「無駄なことを。3ターン引き伸ばしたところで、何ができる」



揺らぎない言葉。
青眼の白龍に絶対的な自信を持つ海馬は、焦燥を滲ませる王様を悦を含んだ目で見下す。
自分の勝利を確信しているのだ。

そりゃーそうだ。
『最強』と謳われるモンスターを、三体もデッキに入れて。しかもそのうち二体は既に場に召喚されており、王様は手も足も出ない現状。なんとかそのターンを凌ぐのに精一杯だ。誰がどう見ても、海馬の優勢は明らか。
逆転される可能性など、ゼロに等しい。


でも、私は。
私は―――知ってる。



「『ゼロに“等しい”』ってだけで―――――『ゼロ』じゃ、ない」

「千春…?おいっ、」




私は城之内の腕の中で身動ぎし、痛む身体を無視してぐっと上半身を起こした。城之内が慌てたように声を上げるが、私はそれを無視して「遊兄!」とカードをドローした王様に向かって声を張る。
苦い表情を浮かべた王様の紫の瞳が、こちらを向いた。

あぁ、もう。そんな顔、しないでよ。
不安と焦り―――そして恐怖。色んなものを綯い交ぜにした瞳に、思わず苦笑が浮かんだ。
でも、そこにあるのは―――決して、失望なんかじゃない。



「遊兄、あのね」

「千春、」

「あのね、遊兄」



大丈夫だよ。


はっきりと、そう言った私に、王様の瞳が見開かれた。



「そのデッキにはまだ、欠片が眠ってる」

「欠片…?」

「大丈夫。遊兄ならできるよ。だから諦めないで」



そう言ってにへら、と破顔する私を、王様はじっと見つめていた。



「遊兄なら、その“欠片”を繋ぎ合わせることができるよ」



欠片。その言葉を繰り返した私に、王様がはっと息を呑んだ。
―――気付いたか。

視線を手札に戻し、その一枚一枚を真剣な眼差しで確認する王様を見て、私もそっと唇に弧を浮かべた。










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