ちょっ、まっ、はぁっ!?ちょっと待って王様出てきたってことはまさかまさかのマジモード!?
なんでたかが幼女とのデュエルに王様出てくんのさ意味わかんない!
まさかまさかの展開にぽかんとしている私をニヒルな笑みで見つめ、王様はまだドローされていない遊戯のデッキに手を伸ばす。私はといえばちょっと頭が大混乱中だ。
ええ、なんで闇遊戯出てきたの。なんでこんなお遊びデュエルで王様お出ましなんですかちょっと妹ちゃん意味わかんない。
「オレは『暗黒騎士ガイア』を攻撃表示で召還するぜ!」
「(しかもいきなりえげつない!)」
暗黒騎士ガイア
ATK 2300
DEF 2100
「『暗黒騎士ガイア』で、『海の竜王』を攻撃!」
「きゃうっ!」
千春【LP 1500→1200】
攻撃力2300のガイアの一撃で、竜王はあっさりと撃破されてしまう。
1ターンだけの命だったか…ごめんね、竜王。
「と…トラップ発動!」
でも、ただじゃやられない…!
「『強欲の瓶』を発動!私はデッキからカードを一枚ドローする!」
伏せていたうちの一枚をひっくり返し、『強欲の瓶』の効果でデッキからカードを一枚引く。
そしてドローしたカードを見て、はっと目を見開いた。
「いいカードは引けたか?」
その声に顔を上げると、闇遊戯が余裕たっぷりの表情でこちらを見つめていた。
そしてそのままカードを一枚伏せてターンを終了する。
……一体全体、なんでこんなお遊びデュエルに王様が出てきたのかは知らないけど。
てか本当になぜ出てきた。冷や汗半端ないよ私の背中。
じ、と王様を見つめ返し、手札に視線を落とす。それから一度深く息を吸って、はいて――――
「…ま、いっか」
「?」
ぼそ、と呟いた言葉は、王様には届かなかったらしい。
どうした?と言いたげな表情で首をかしげた王様を、顔を上げた私は真正面から見た。
唇に浮かばせたのは――――笑み。
王様がぱち、と大きな目を瞬かせた。
なんで貴方がここで表に出てきたのかとか。色々考えたけど、多分それは貴方にしかわからないことだろうから。
なら、ごたごた考えんのはやめましょう。
考えてみれば、すごくいい機会じゃないか。遊戯だけじゃなくて、王様ともデュエルができるなんて―――
私、生きててよかった!単純だって?…ほっとけ!!
「行っくよ“遊兄”、私のターン!」
にや、と笑って、私はドローしたカードと手札を確認し、その中から二枚のカードを抜き取る。
「私はフィールド魔法『海』を発動!このカードの効果により、すべての魚・海竜・雷・水属性のモンスターの攻撃力と守備力は200ポイントアップする!もちろん、私の場に残っているジェリーフィッシュもね!」
海月‐ジェリーフィッシュ‐
ATK 1200→1400
DEF 1500→1700
「ほう、フィールド魔法か。だが、それでもオレの『暗黒騎士ガイア』の攻撃力には遠く及ばないぜ?」
「遊兄、教えてあげる。それフラグっていうんだよ。―――私は手札から、『半魚獣・フィッシャービースト』を召喚!」
「っ何!?」
半魚獣・フィッシャービースト
ATK 2400
DEF 2000
「もちろんフィッシャービーストも水属性!『海』の効果を受ける!」
半魚獣・フィッシャービースト
ATK 2400→2600
DEF 2000→2200
「攻撃力2600…!」
「フィッシャービーストで、『暗黒騎士ガイア』を攻撃!」
ガイアの攻撃力は2300。もともとの攻撃力も高いが、『海』の効果を受けて合計300上回った攻撃力を持つフィッシャービーストの敵じゃない。
これで…!
「やるな千春。でも、勝負を焦りすぎてないか?」
「え?」
「トラップ発動!『和睦の使者』!」
「はっ!?」
わ…和睦の使者!!?
王様が発動させたトラップに、私は思わず素っ頓狂な声を上げた。
お…王様が『和睦の使者』…!?このカードはどっちかというと杏子が使ってたイメージが…!!
ミラーフォースならわかるけど、まさかの和睦だと…!?
「( 似 合 わ な い ! )」
「これでこのターンのバトルフェイズは無効になる!詰めが甘いな、千春…うん?どうした?」
「い、いや、なんでも…」
ふふん、と得意げな顔をした王様だったが、肝心の私は色々な衝撃で口元を手で覆い、ちょっとぷるぷるしていた。
ま…まさしくノーマークな場所からダイレクトアタック喰らった気分です、王様…!
「こ…攻撃は通らなかったけど、仕方ないよね…私は一枚カードを伏せてターンエンド、だよ」
やばい、この胸の中で荒ぶる感情をどう処理していいものかちょっとわかんないです。
ぷるぷるしながらカードを伏せてターンを終了した私に、王様は不思議そうにしていたが、気を取り直して自分のデッキからカードを一枚引いた。
…まあ、王様は確かにめちゃくちゃ強いっていう印象があるけど。
でも、今私の場には攻撃力2600のフィッシャービーストがいる。
守備表示のままのジェリーフィッシュもいる。そうやすやす、あちらの攻撃は通らないはず…。
ふー…と息をつき、王様を見る。
と、そのとき、自分の手札と今しがた引いたカードを見比べていた王様が、ふっと視線をこちらに向けた。紫の綺麗な瞳と視線がかち合う。
そして。
―――ニヤリ。
「ッ!!?」
意味深に、不敵な笑みを浮かべた。
え、は、ちょ、何ですかその笑みは…!
真正面からそのニヒルな笑みを直視してしまった私の胸の下で、漸く落ち着いてきていた心臓が再び激しく暴れまわる。
…何あの笑み超カッコいいってか動機息切れが激しいです何なんです一体何なんです!!?
今まで画面越しに見ていてもやばいカッコいい王様あああああ!ってなっていたのに、それを今直接向けられて……顔が真っ赤になるのは仕方ないですよね畜生!!
しかしそれと同時に嫌な予感もしますよね遊戯王ユーザーの勘だよこんにゃろう!!!
そんな支離滅裂な思考回路の片隅で、僅かながらに残っていた冷静な部分がぼそりと呟く声がした。
あ、詰んだわこれ。
「悪いな千春、このデュエル…オレの勝ちだ」
「ふ、えっ?」
「オレは魔法カード『融合』を発動する!」
な ん で す と ?
さっと血の気が引いたような気がした。
融合。そのカードの効果はもちろん知っている。だって時期主人公、遊城十代くんも愛用していたカードじゃないですかー!アニメもしっかり見ていた私は知っている。そのカード一枚で、どんな起死回生劇が展開するのかを。…私もゲームでは多用してましたもの…。
視線だけを動かして、王様の場を確認する。
フィールドに出ているのは例の『暗黒騎士ガイア』。
……………おっと、このパターンは。
「いくぜ!オレはフィールドの『暗黒騎士ガイア』と……―――――手札の『カース・オブ・ドラゴン』を融合!!」
「!!!!」
で す よ ね ー !
予想通りの展開に、くらりと眩暈がした。
現れたのは、金色のドラゴンの背に乗った暗黒騎士のカード。
――――『竜騎士ガイア』。
竜騎士ガイア
ATK 2600
DEF 2100
…どこからか、処刑用BGMが聴こえてくるようだ…(遠い目)
「これでフィッシャービーストと攻撃力は互角だ!」
「ステータスが並んだだけじゃない!まだまだ勝負はついてないよ!」………って、言いたいところだけど。これだけじゃ終わらないんでしょ、王様…?
大体この後の展開が予想できてしまうのが、遊戯王ユーザーの悲しいところである。
そしてその予想は、ピタリと命中する。
「オレはさらに、魔法カード『収縮』を発動!このカードは、フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を選択し、このターンのエンドフェイズまでそのモンスターの攻撃力を半分にする効果を持つ!オレが選択するのは…フィッシャービースト!」
「ですよね!!」
フィッシャービースト
ATK 2600→1300
「バトル!『竜騎士ガイア』で、『半魚獣・フィッシャービースト』を攻撃!」
「ふきゃっ!!」
『竜騎士ガイア』の攻撃で、フィッシャービーストが破壊される。
しかも今フィッシャービーストの攻撃力は1300で、対するガイアの攻撃力は2600だから…
「…貫通ダメージ1300で、私のライフはゼロ。私の負けだね、遊兄」
千春【LP 1200→0】
はあ、と溜息をついて、私は手に持っていた手札をばらっとベッドの上に落とした。
あー、悔しいなあ。やっぱ王様は強いね。でも、唇からこぼれたのは、はは、という笑い声だった。自分でも、ちょっと不思議。
私結構負けず嫌いなとこあるし、悔しいのは確かなんだけど。
「もーちょいだったのになー」
「はは、でも千春も大したものだったぜ」
「むう、勝者の余裕って奴ですなーお兄様」
唇を尖らせて、不満を顕にしてみれば、王様はぷっと小さく噴出して私の頭を撫でた。
……って、お…おおお!?わた、私、撫でられてる!?今私王様に撫でられてる!!?
「千春はすごく強かったぜ。オレもちょっとヒヤッとしたところもあったしな」
コンボの組み合わせがうまいな、と笑う王様。
え…えええ、私撫でられた上に褒められてる…!?
はわわわ…と顔を真っ赤にして王様を見上げる私に、王様は優しげに目を細めると、ぽんっと軽く私の頭を叩いた。
「楽しかったぜ、千春。またオレと、デュエルしてくれ」
約束な、と小指を差し出され、私はこくこくと頷きながらも、恐々とそれに自分の小指を絡める。
…負けちゃったけど私、今日一日で人生の幸せ使い切っちゃった気がする…………ッ!