「………………うーん……」



私は悩んでいた。
目の前には青眼の白龍が入ったあの赤い小箱。蓋は閉じられたままだ。

…昨日、店にやって来た海馬瀬人。私の記憶が正しければ、彼がおじいちゃんに無理やりデュエルを挑み、青眼の白龍を強奪するのは今日だ。

青眼の白龍。おじいちゃんの大切な、絆のカード。でも、このままじゃこのカードは海馬瀬人の手で無惨に破られてしまう。

…でも、じゃあどうしよう……このままじゃおじいちゃんのカードは……………



「千春?」

「うっわぁッ!!?」



小箱を前にうんうん唸っていると、突然後ろから今しがた考えていた張本人の声がして盛大に驚いた。
ばくばくとうるさい心臓をどうにか押さえつけて振り向くと、奥へ続く扉の影からひょっこり顔を覗かせたおじいちゃんが。び…びっくりしたああああ…!!



「どーしたんじゃ、そんなにコソコソして」

「お、おじいちゃ…えと、その」

「ん?なんじゃ、ワシのブルーアイズ・ホワイトドラゴンじゃないか。自分で出してきたのか?」

「…ご、ごめんなさい………」



おじいちゃんに手元を覗きこまれ、しょぼん、と肩を落とす。
別に疚しいことをしようとしていた訳ではないけれど、人の大切な物を勝手に引っ張り出してきてしまったのだ。若干気まずい。
しかしおじいちゃんはそんな私に「ホッホッ」と笑い、



「良い良い、気にするな。じゃが、次からはそんなにこっそりせんでも、ワシに言えばいくらでも見せてやるワイ」

「…ありがとう………」



そう言って、私の頭に手を置いた。暖かなしわくちゃの手で頭を撫でられ、思わず顔が綻ぶ。
やっぱり、優しいなあ。…やっぱり、この人を悲しませたくない、な。



「…………おじいちゃん」

「うん?」

「おじいちゃん、このカード、大事?」

「当然じゃ。そのカードは、………ワシとワシの友達との、絆の証じゃからな」



そう言ったおじいちゃんは、とても優しい顔をしていた。
私は頭に置かれた掌の温度を感じながら、顔をあげてまっすぐにおじいちゃんを見上げた。



「ねえ、おじいちゃん。あのね、お願いが…」



あるんだけど、と。

続けようとした言葉は、突如乱暴に開けられた扉と激しく鳴り響く来店ベルの音にかき消された。



「いらっしゃーい…………ウン?なんじゃ…?」




パッと弾かれたように振り向いた私達の目に映ったのは、黒いスーツに黒いサングラスと、見るからに怪しい男の三人組。
おじいちゃんは眉を潜め、私はびくりと身を強張らせた。

来、ちゃった…!間に合わなかった…?



「―――海馬様からデュエルのご招待でございます。武藤双六様」

「…断る、といったら?」

「力ずくでも、と」



私は咄嗟に手に持った青眼の白龍のカードを男達から見えないよう隠した。おじいちゃんは横目でそれをチラリと見て、それから良かろう、と頷く。



「(あの少年、勘違いしている。どうやらあの少年に、カードの心を教えてやらねばならんようじゃの……)」



静かに、けれど険しい顔をしたおじいちゃんを見上げて、私はぎゅっと身を縮こまらせていた。





▽▲




「じーちゃん、千春、ただいまー!」

「よーすじーさん!またカード買いに来たぜー!」



学校の授業が終わり、遊戯たちは昨日のように四人そろって帰宅した。
いつものように店のドアを開ければ、カランカランとベルの音が響く。


けれど、それだけだった。



「…じーちゃん?」



店の中は新と静まり返っており、人の気配がまるでしない。
母はおそらく買い物にでも出ているのだろう、しかし、この店の店主である祖父が、まだ営業時間内だというのに姿がないのはおかしかった。それも、鍵もかけず。
それに―――



「お帰りなさい、遊戯兄!」



この家に来た日から一日欠かさず、自分が帰ってきたときには出迎えてくれた妹の姿もない。
留守?と不思議そうに店の中を覗き込む杏子の言葉に、一抹の不安を覚えた。


そのとき。
店の奥にある電話が鳴った。
はっとした遊戯が、慌てて受話器をとる。

ざわざわと、胸の中の不安は消えない。



「もしもし?」



――――そして、その不安は。



《――――遊戯君》

「………海馬君…?」



的中する。



《キミのお祖父さんと―――妹さんを、預かっている。うちのビルまで引き取りに来てくれないか》











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