「…………」



目を開いた先に見えたのは、見慣れた天井と、それに伸ばされた僕自身の手のひらだった。
ああ、また夢か。

ぽすん、とベッドに手を落として、小さく嘆息する。

あの日…じーちゃんに半ば無理やりエジプトに連れて行かれたあの日から、同じ夢をよく見る。悪夢ってわけじゃないけれど、こうも繰り返し見せられるとなんかフラグの予感するよねー。ってかコレもうフラグでしょ。確実に。

むくり、とベッドから上半身を起こす。ちらりと見た床には、昨日調整してそのままにしていたカードが散らばっていた。…やば、そのまま寝ちゃったんだ。コレほっとくと怒られるんだよなぁ…。まだぼーっとする頭を無理やり動かして、僕はベッドの中から手を伸ばして、床に落ちていったカードの一枚を掴んだ。…と、その瞬間。



ポンッ☆



『ようやくお目覚めか。俺を放置したまま寝るなんていいご身分だな、マスター?』

「…………」



出た。
カードを手に取った僕の前に顕れたのは、一人の男だった。すらりと高い身長、背中まで伸びる長く艶やかな黒髪。身に纏うのは、黒と金を基調にした、ちょっと異国風のファンタジーな衣服だ。腰にこれまた凝った装飾の剣を二振さしている。
現代でこんな格好して外を歩いてなんかいたら、人目についた瞬間に通報されそうだ。銃刀法違反とかで。

しかし、その姿は半透明。うっすらとだが、“彼”を通して向こう側の景色が見えている。

彼は、常人には見えない。
今のところ、僕にしか、見えない存在。



「…おはよ、セイフ」

『はいはい、おはよマスター』



呆れたように腕を組み、僕を見下ろす男―――セイフ。
彼は、所謂“精霊”というやつだ。僕が今手に持っているこのカード、デュエルモンスターズの精霊。
うん、精霊っていうと、どちらかといえばGX時代の方が印象強いんだけどね。何故か僕にも見えちゃってるみたいでね。…………これが次世代へのフラグになっていないことをこっそり願っておこう。うん。



『ったく、寝転びながらデッキ調整なんかするからいつの間にか寝ちまうんだよ。ちゃんと起きてやれ、起きて』

「んー…セイフ、今何時?」

無視かよ。…はぁ、7時過ぎたとこだよ。そろそろ起きないと、直前で慌てることになるぞ』



マジか、と呟けば、マジだと返された。
僕としても遅刻するのはごめんなので、大人しくベッドから起き上がることにする。

のろのろとした動きでベッドから這い出せば、シャキッとしろーなんて間延びした声が上から降ってくる。余計なお世話である。



「今日って何曜日だっけ?」

『火曜日』

「げっ、授業フルじゃん。めんどいなぁ…」

『帰りにカード屋寄ろうぜ、カード屋』

「まーたじーちゃんに泣かれるよ。敵の店で買うとはーって…まぁ行くけど。光の護封剣欲しいんだよねー」

『そういや、この前ニュースでやってたけど。瀬人の奴、また全国大会で優勝してたらしいな』

「え?」



不意にセイフの口から出た久しく会っていない友人の名前に、思わず手を止める。
寝巻き代わりにしているTシャツを脱ぎ、クローゼットから引き出したブラウスに袖をとおしながら、僕はセイフの方を振り向いた。



『見えてる』

「………見セテンダヨ」

『うわぁそんなちっせーの見せられても全然嬉しくねぇ』

「てめぇコンニャロ」



一応Bはあるっちゅーの!
失礼なことを平然と口にしたセイフをキッと睨みながら、僕は手早くボタンを閉めた。
黒いタイツ、空色のスカートと、同色のリボン。最後にピンク色のブレザーを羽織れば、完成だ。



『まだ髪ボサボサだぜ、オヒメサマ』

「あう」



グイ、と今まさに櫛を通そうとしていた髪をセイフに引っ張られる。わかってるよ、とその手を払い、僕はいつもつけているお気に入りのリボンを手に取った。



「瀬人、また勝ったんだ。前の大会にも出てなかったっけ?」

『出てた出てた。で、その大会も当然の如く優勝』

「最近の大会の優勝は瀬人が総ナメだねぇ」

『お前なら勝てるだろ、アイツに』

「んー、どうだろうねー」



いつも無表情で不機嫌そうな、デュエルの時だけ煌めく青い瞳を思い出して小さく笑う。
アメリカで初めて会ったあの日以来、僕たちは色々なデュエルモンスターズの大会で鉢合わせる事が多々あった。そういう時は、大抵僕と瀬人の一騎討ち。
まぁそんな風に何回も何十回も決闘してたら、嫌でも顔見知りにはなるわけでして。
今となってはいい友達、いいライバルだ。

いつからか僕はそういった大会からは足が遠退いていったから、大会で彼と会うことは無くなっていったけど。

それでも童実野高校に入学が決まった時、遅かれ早かれ会うだろうなとは予測していた。彼も童実野高校の生徒であるということは、知識として知っていたし。

…けどまぁ、入学式で新入生代表として壇上に上がったのを見たときは思わず噴いたけど。まさかそんな風に再会するとは思わなかった。てか瀬人って本当に頭よかったんだね。新入生代表ってつまり、受験で一番成績よかったって事でしょ?

僕?僕は落ちない程度に手を抜いたから、大体真ん中くらいじゃない?←






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