準決勝の相手は、女の子だった。
ゆるくパーマのかかった赤毛に、猫のように釣りあがった翡翠色の目。
互いにデッキを交換して、シャッフルする。
彼女は僕を見ると、その大きな瞳をぱちりと瞬かせた。
「Hey!お姉さんがアタシの相手なのね!ナマエからして、日本人かしら?」
「あ、うん、そうだよ」
「ふーん、わざわざ日本からアメリカに来るなんて物好きねぇ。アタシはリディア。7才よ。ま、お互いいいデュエルしましょ!」
「う、うん」
七歳、か。僕よりずっと年下じゃないか。…凄くしっかりしてる子だなぁ。親御さんの教育がよろしいようで…っと。僕はシャッフルし終えたデッキをリディアに返す。
彼女からも僕のデッキを受け取り、互いに席に着いた。
「それではこれより、準決勝第一試合!Aブロック代表リディア・アンブシュールVSユーリ・ムトウのデュエルを開始する!」
黒服の審判が高々と宣言する。僕らは互いにデッキから五枚カードを引き、視線を合わせる。
すう…と小さく息を吸い込んで―――――
「「デュエル!!」」
リディア【LP2000】
遊理【LP2000】
「先攻はアタシよ!ドロー!手札よりフィールド魔法、『聖域の歌声』を発動!」
聖域の歌声、ね。場に出た守備表示モンスターの守備力を500ポイントアップさせるカードだ。ってか、いきなりフィールド魔法出してくるなんて。
「さらにモンスター1体を守備表示で場に出すわ。リバースカードを1枚セットして、ターンエンドよ」
「僕のターン、ドロー」
ぴっ、とデッキからカードを一枚ドローする。
「ストップ!この瞬間、アタシのトラップが発動するわ!永続トラップ、『シモッチによる副作用』!」
「!」
「この効果により、これからアナタのライフが回復する効果は、ダメージを与える効果になる!」
………。
僕はちらりと手札を見た。僕の手札の一番端…。魔法カード『治療の神 ディアン・ケト』。発動すると、ライフが1000回復するカードだったんだけど……。
「(いきなり封じられた…)」
「フフ、アナタのデュエル、実はこっそり見てたのよ。アナタのデッキには、ライフポイント回復の効果を持つカードがいくつかあったでしょ?」
「…へー、研究してたってわけ?凄いね」
「ライバルの動向はチェックしとかなくちゃ!レディの嗜みよ?」
ふふん、とリディアは得意げに鼻を鳴らして胸をそらす。
まあ、レディの嗜みかどうかは別として、確かに相手の手の内を探ることは大切だよね。
僕は手札に手をかけた。
「僕は手札より、『踊る妖精』を攻撃表示で召喚。バトル!踊る妖精で、伏せカードを攻撃!」
「甘いわ!私の守備モンスターは『弓を引くマーメイド』!」
弓を引くマーメイド
ATK 1400
DEF 1500
「弓を引くマーメイドの防御力は1500!通常ならアナタの妖精のほうが攻撃力は上だけど、今は『聖域の歌声』の効果で守備モンスターの防御力は500ポイントアップしてる!」
「ッ!しまった…!」
「返り討ちよ、マーメイド!あなたのライフを300削るわ!」
遊理【LP2000→1700】
「…僕は場にカードを2枚伏せて、ターンエンド」
しまった…聖域の歌声の存在を忘れてたよ…。さっき出されたばっかだったって言うのに、忘れるの早すぎだろ僕…。
「アタシのターンね。ドロー。…手札より、『逆転の女神』を召喚!」
「ッ!!」
逆転の女神
ATK 1800
DEF 2000
場に出された女神に僕の顔は引きつる。
くそ、だから厄介なんだよこの時代のデュエルって!レベル4以上のモンスターを召喚するのに、なんで生贄いらないの!普通1体いるでしょ!!
「バトル!弓を引くマーメイドと逆転の女神で、ダイレクトアタック!」
「リバースカードオープン!『和睦の使者』!」
「あっ!」
「コレでこのターンの攻撃は無効だよ」
よし、間一髪!
リディアは不満そうに唇を尖らせていたが、僕も簡単に負けるわけには行かない。
彼女はそのままターンを終了した。
「僕のターン、ドロー。『シャイン・アビス』を召喚!」
シャイン・アビス
ATK 1600
DEF 1800
「バトル!シャイン・アビスで弓を引くマーメイドを攻撃!」
「きゃあっ!」
リディア【LP2000→1800】
シャイン・アビスの攻撃で、弓を引くマーメイドが破壊される。
「ターンエンド」
「うう…よくもやったわねっ!アタシのターン、ドロー!アタシは装備魔法『悪魔の口づけ』発動!逆転の女神に装備させるわ!」
逆転の女神
ATK 1800→2300
「バトル!逆転の女神で、シャイン・アビスを攻撃!シャイン・アビス撃破!」
「くっ…この瞬間、僕はリバースカードをオープン!『白兵戦』!戦闘によりライフポイントにダメージを受けたとき、効果発動!キミのライフに700ポイントダメージを与えるよ!」
「えっ、ズルい!」
「ズルくないよ、立派な戦略さ!」
遊理【LP1700→1000】
リディア【LP1800→1100】
「むむむ…いいもん!次のターンで決めるんだから!」
「僕のターン、ドロー」
…! きた!
「ごめんねリディア、僕の勝ちだ」
「え?」
「僕は手札から、『デュナミス・ヴァルキリア』を攻撃表示で召喚!」
デュナミス・ヴァルキリア
ATK 1800
DEF 1050
「さらに装備魔法『一角獣のホーン』発動!攻撃・守備力共に700アップ!」
デュナミス・ヴァルキリア
ATK 1800→2500
DEF 1050→1750
「こ、攻撃力2500!?」
「さらに装備カード、『銀の弓矢』を発動!ヴァルキリアの攻撃力・守備力共に300ポイントが加算される!」
デュナミス・ヴァルキリア
ATK 2500→2800
DFE 1750→2050
「こ、攻撃力2800…!嘘でしょ!?あ…で、でも、攻撃されたってまだ私のライフは残る!」
「さらに手札から、『ご隠居の猛毒薬』を発動!このカードには自分のライフポイントを回復する効果があるんだけど……残念なことにキミに回復は封じられちゃってるからね、僕が選択するのは二つ目の効果!キミのライフから800ポイントを削るぜ!」
「ええっ!?ちょ、じゃあ…!」
「そう!これできっちりキミのライフを削れる!デュナミス・ヴァルキリアでを攻撃!」
「きゃああああ…!」
リディア【LP1100→0】
「勝者!ユーリ・ムトウ!!」
決着はついた。
高らかに審判が僕の勝利を告げれば、会場が一気に沸き立つ。
ふう、と息をついた。あー、緊張した!
「ありがと、リディア。楽しいデュエルだったよ」
「…今回は、負けたけど。次は負けないわよ!Good duelだったわ、ユーリ!」
テーブルの前で、僕らは握手を交わす。
わあっと響き渡る歓声の中で、それにしても…とリディアは頬に手を当てた。
「強いのね、アナタ。日本人って皆強いの?」
「はは、それさっき闘った子にも訊かれたよ。別にそんなことないんじゃない?」
「そう?でもアタシが見る日本人って、大体デュエル強いのよね。ほら、今日もこの大会に参加してる…えっと、ナマエなんだっけ?」
リディアがうーんと考え込むのを、僕は首をかしげながら見守る。
おもむろに、リディアが準決勝第二試合が行われている隣のテーブルを振り返った。
「隣のテーブルでやってるのよ、その子。えーっと……ああ、思い出した!確かセト・カイバよ!!」
「…………へ?」
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