夕飯を終え、子供部屋に戻る。
結局、遊戯はご飯を食べに降りては来なかった。まったく、まーだパズルやってんのかなぁ。



「遊戯、もういい加減ご飯食べないとママが…」



言いながら、扉を開けた。けど、その言葉はすぐに喉の奥に引っ込んだ。
遊戯は、床の上で小さく丸まって眠っていた。手元には、黄金のピースが散らばっている。パズル解き疲れて、そのまま寝ちゃったのかなぁ。
僕は足音を消して遊戯に忍び寄り、すやすやと眠る幼い顔を覗き込む。
うーん寝顔可愛い。取り合えず一枚。ぱしゃっと。

いそいそとカメラをしまってから、二段ベッドの下の段…遊戯のベッドを漁り、よっこいせと毛布を引っ張り出す。…星模様、だと…どこまでツボついてくんのかなうちの片割れは。



「よいしょっ…と」



起こさないように体に毛布をかけてやり、その傍にぽすんと座る。
あどけない寝顔。幼い寝顔。目を細めて、僕は遊戯を見つめる。



「…ゆーぎ」



そっと手を伸ばし、僕は遊戯の頭を優しく撫でた。
気持ちいいのか、眠っているのに遊戯は少し微笑んで僕の手に擦り寄ってくる。…なんでこんなに可愛いの僕の片割れは。実は天使の生まれ変わりなんじゃなかろうか僕の片割れは。ブラコン?自覚してる。

よしよしと彼の頭を撫でながら、僕は遊戯の手元に視線を移す。
………照明の光を受けて、黄金に輝く数多の欠片。これから、遊戯を大いなる宿命に導くもの。

ひとつ、それを拾い上げる。
手に取ったのは、パズルの中心―――ウジャト眼が刻まれた、あのピースだ。



「…なあ、今の君に、この声は届くのかい?」



今は何の変哲も無い、ただの黄金の塊。
コレが組み上げられたとき、目覚める『彼』。こんな冷たい欠片に、本当に『彼』の魂が眠っているというのだろうか。にわかには、信じられないけれど。

僕はそれをまじまじと眺め、それから小さな指で、そっとウジャト眼の溝をなぞった。
思い出すのは、前世の僕が憧れた彼。

自信に満ち溢れた貌。
聡明で鋭い光を放つアメジスト。
全てを統べる威圧を放つ、王者の風貌。

遥か三千年前、恵みの水が流れる砂の国に生まれ、太陽に愛された神の子。
守るべき未来と引き換えに闇と共に封じられ、この世界から消されてしまった、古代の王たる君の名は――――



「―――――アテム」



その、刹那。



――――ドクン




「……!!?」



大きく、心臓が鼓動を打った。
喉から心臓が出てしまうのではないかと思うほど、大きく。
咄嗟に息をつめ、強く胸を押さえる。

大きく鼓動が響いたのは一回だけ。でも、押さえた心臓はその余韻を遺すかのように、どくどくと少し早めに脈打っている。



「……今の、は…?」



浅く、長く息を吐いて、僕は恐る恐る右手を開く。
そこにあるのは、先ほどと変わらずにきらりと輝く黄金の眼。
でも、気のせいだろうか。少しだけ、熱を持っているような気がした。



「……………………」



まさか…僕が呟いた名前に、反応した…?
普通ならまさかそんなと笑い飛ばすところだろうが、これは千年アイテム―――常識では到底計れる代物じゃないことは、恐らく僕がこの世界で一番よく知っている……っていうのは、ちょっと自惚れすぎかな…?


もう一度、ウジャト眼をなぞってみる。
小さな、本当に小さな声で、「アテム……?」と、再び『彼』の名を呼んだ。


今度は、何も起こらなかった。


――――何故だかそれが、無性に泣きたくなるほど、悲しく感じた。









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