そんな衝撃的な誕生を体験し、早8年。
僕は最近、諦め始めたことがあります。
「じーちゃんアレちょうだい!」
「う――――――――ん…」
「ゲームで勝ったらなんでも一個くれるって言ったじゃん!」
「う―――――――――――――ん…」
「じーちゃあん!!!」
大きな紫色の瞳を潤ませ、祖父に泣き付く我が片割れ。あの時一緒に生まれた、双子の兄だ。
そんな二人を、アイスを咥えながら遠巻きに眺める僕。時折じーちゃんから助けを求めるような視線が寄越されるが、無視だ。それより僕には大事なことがある。
片割れが指差す先、そこにあるのは、テーブルの上にあるひとつの箱。
窓から差し込む太陽の光を浴びて輝く、黄金の聖櫃。
表面には何やらわけの分からない絵のような文字―――ヒエログリフが刻まれ、その中心には目玉のような模様―――ウジャト眼がある。
そしてそれが欲しいと駄々をこねる片割れ。前髪だけ金色で、後ろ髪は毛先に行くに従って赤く色づいているヒトデヘアー。……………極めつけは、その名前だ。
いやぁ、初めて思い至った時は背筋が凍りついたね。しかも心臓だって滅茶苦茶早鐘打つしさ。嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ!!!!なんて赤ん坊なのに青い顔して冷や汗ダラダラ流して、両親やじーちゃんを心配させた記憶はまだ鮮明に残っている。
だからその時からなんとなく…いや、生まれて僕らにそれぞれ名前をつけられたときから、なんか嫌な予感はしてたんだけど。でもさ、現実逃避したいことって、あるじゃん。
うーん…気のせいだと、偶然だと思いたかったんだけどなぁ。
「遊理ー…遊戯に何とか言ってやってくれんかのう」
「遊理も聞いてたよね!?じーちゃんなんでもくれるって言ってたもんね!?」
遊戯。聞きなれたはずのその名前が、改めてぐさりと頭に突き刺さった気がした。
わけが分からないままこの世に生まれ変わって早8年。毎日毎日その名前を聞いて、その姿と顔つき合わせてきて、けれど多分きっと偶然だろうなんて思い続けてきて。
そしたらその矢先に現れたのがあの聖櫃だ。
あーもう認めろってか。約10年後の未来に覚悟決めとけってか。
僕はまだ小さな手でがしがしと頭を掻いた。
「「遊理〜っ!!」」
…あーもうっ!!!
「二人ともうるさい!こっちはこっちで真剣な考え事してんの!」
「だって遊戯が」
「じーちゃんが〜!!」
「あーもう泣くなよ遊戯っ!じーちゃんも往生際悪いって!約束したんならちゃんと守んなさい!」
「ぐわっ…遊理まで遊戯の味方なのか…!」
いや、約束したんなら間違いなく遊戯の主張のほうが正しいだろうよおじーさま。
ったく、と溜息をつきながら、僕はぴょんとソファーから降りて二人の元に歩いていく。
…さて、それでは改めて自己紹介しましょうか。
8年前に所謂転生トリップというものを体験しました、元女子高生で異世界人の八神遊理です。あ、でもこれ前世の名前ね。
そして現世の名は、―――――――武藤遊理、です。
どうやら僕は、“遊戯王”の世界にトリップしてしまったようです。
しかも主人公の妹とか、何それフラグの予感しかしない。
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