あれから暫く時間が経ったが、ファラオはよっぽどスマホが気に入ったのか、私の隣に陣取ったまま離そうとしない。
そんなに楽しいかなあ。でもあんまり遊ぶと電池が若干心配である。



「なあ、娘…む?そういえば、私はお前の名前を知らないな。なあ娘、名はなんという?」

「名前?」



王様の言葉に、そういえば、私たちが互いに名乗りあっていないことに気付く。
ここに来てからこうして誰かと喋ることなんてなかったので、私の名前を必要とする人がいなかったためすっかり忘れていた。



「私は神那。継結神那だよ。あ、私の国では、名前が苗字の後にくるの」

「神那か。不思議な響きの名前だな。―――だが、美しい音だ」

「へ」



思ってもいなかった言葉に、一瞬私の思考が停止した。
どうした?と不思議そうに首を傾げるこのイケメンはわかっていないに違いない。う。美しいとか、リアルで名前に対してそんなこと言うヤツ初めて見た…!頬がほんのり熱くなって、思わず手の甲で口を押さえる。


「…で、その。王様の名前は?」

「ん?知らぬのか」

「異国の民ですので」

「ああ、そうか。ならば仕方あるまい。私はアクナムカノンだ」

「アクナムカノン…」



…長い。
外国の王族の名前って、やっぱ長いのが定石なんだろうか。
アクナムカノン…と何度か口の中で呟いて、そうだと私は顔を上げた。



「カノン」

「カノン…?」

「王様のこと。そう呼んでもいい?長い名前、慣れてないから呼びにくくて」

「カノン…」



王様はぽかんとした顔で私を見ていた。
…? 何だろう、私、何か変なこと言っただろうか。



「……慣れ慣れしかった?」

「いや…今までそのようなことを言われたことがなくて……お前は、面白いな」



…どういう意味だ?
訝しげな顔をする私を見つめたまま、王様は小さく笑った。



「王である私に物怖じもせず、対等に接してくる。私の周りにそんな人間はいなかった」



思わず「え?」と声を漏らしてしまったが、すぐにああそうかと思い至った。
この人は、まがりもなしに一国の王なのだ。
いくら私と似たような年代で、スマホを弄ってはしゃいで子供っぽい面を見せていようと、この人は紛れもなく王なのだ。

エジプトでは、王とは神に等しい高貴な存在である。

そんな神の一族に、対等な立場で接することができる者などいないのかもしれない。
……あれ、そしたら私、今までの態度すっごい不敬じゃないの?下手したら首チョンパなんじゃないの?命の危機再び!



「だがそなたは違う。異国の民故のことなのか、私を《王》としてではなく一人の《個》として対等な立場で接してきた」

「………ねえ、私ひょっとして不敬罪です?これ」

「普通ならな」

「マジかよやっちまった!」



ぎゃー!と漸くそれを認識して騒ぐ私に、王様はおかしそうに噴出した。



「だが、かまわぬ。そなたは許そう」

「………え?」

「そなたのそのまっすぐな態度、気に入った。私のことは好きに呼ぶがいい、敬語もいらぬ。そなたはそなたのままで、私に接してはくれないか?」



その言葉に、今度は私がぽかんとする番だった。
ちょっと理解するのが遅れた。…えーと、私ひょっとして、今すっごい言葉言われた?
思わず王様の顔をまじまじと見つめてしまう。



「…いいの?」

「ああ」



真っ直ぐなその瞳に、私は思わず破顔した。












「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -