02




―――女性だった。

たっぷりとした長い金色の髪を優雅に揺らしながら、彼女は悠々と水面を歩いている。
彼女の足下には何か魔方陣のようなものが浮かび上がっており、その上をまるで普通の地面の上であるかのように平然と進んでいるのだ。

ファ…ファンタジー……

一瞬くらりと目眩がしたが、気を持ち直してなんとか踏みとどまる。

と、その時、彼女が歩いた後の陣の上に、あの少年が飛ばしたらしい小さな紙切れが落ちているのを見つけた。
特に深く考えることもなく、私は柵の上に足をかける。



「あっ…!?待って!」



それを見た少年が慌てたように声を上げるのも構わず、私はそこから魔方陣の上目掛けて飛び降りた。



コツン、



足裏に感じたのは、ばしゃんと弾ける水の感触ではなく、固い“何か”。
紙を拾い上げながら軽く拳でこつこつと叩いてみたが、なんだかガラスの上に乗っているような感じさえした。

足場が確かなことを確かめながら、ゆっくりと立ち上がる。
ぱたぱたと足音がして顔を上げると、息を切らせた少年が私を追いかけてすぐ後ろまで来ていた。



「き、君っ!危ないよ、いきなり飛び降りたりなんかしたら…!」

「大丈夫だよ。それより、これ」



ぴっ、と少年に持っていた紙を渡す。「あ…」と思い出したようにその紙を見た少年は、恐々とそれを受け取ると、困ったような顔で「ありがとう」と笑った。



――――その時。


ゴォッ!!


空気がうねる音と共に、凄まじい熱気が勢いよく私達の身体に吹き付けた。



「…ッ!!」

「わ…!?」



咄嗟に顔を庇った少年を背に、私はその熱気の発生源を振り向く。


あの女性、だった。彼女を中心に熱気が渦を巻き、形を成した炎が前に向かって放たれる。
それは用水路を閉ざしていた鉄格子をいとも簡単に破壊した。
な……なんちゅうチート…!



「い、今の…一体―――うわっ!?」



呆然としていると、突然少年が悲鳴を上げた。同時に、彼の身体が一瞬視界から消える。
はっと我に返った私は、咄嗟に彼の腕を掴み、自分の方に引き寄せた。
少年を抱き寄せるような形になってしまったが、うん。仕方ない仕方ない。視線を落として見ると、今まで少年が立っていた場所の魔方陣が不安定に揺れていた。ゆらゆら、ゆらゆらと波の波紋のように揺れたそれは、やがて溶けるように消えてしまう。



「…タイムリミットとかあるんだ、これ」

「そ…そう…みたい………」



私と同じように水面を見ていた少年が、ぎこちなく頷く。
取り敢えず、落ちなくて良かったねと声をかけようとした瞬間。



「――――何だ、君たちは?」



前から、凛とした声と、突き刺すような視線を感じた。






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