02


校門を出て駅までの道を歩く。
この時期になると、もうこの時間はすっかり夜だ。あと、風が冷たい。赤と黒のチェック柄のマフラーを首にぐるぐる巻きながら、私は静かな道を歩いていた。

文化祭まで、あともうちょいか。こうして普通に学生生活を送っていると、ああ平和だなぁなんて思ってしまってちょっと笑える。
空を仰げば、ぽつぽつと星が瞬き始めているのが見えた。


当たり前の日々。平穏で、平和で、平凡な世界。
ここが、私の世界――――

















そのとき、風が吹いた。













『 君に託すよ 』















思いのほか強い風。
巻き上がった砂塵に、思わず腕で顔を覆って眼を強く閉ざした。















『 君の手に この世界の未来を 』




『 さあ、眼を開けてごらん 』
















ばたばたとパーカーのフードがはためく。
暴れる髪を片手で押さえながら、私はそっと目を開く。















『 頼んだよ 』















―――――そこに広がっていたのは、今までいた閑静な住宅街なんかじゃなくて。



「……っ!?」



夜の闇の中に、ふわり、ふわりと蛍のような光が浮かんで街を照らしていて。
車のライトみたいな強い光じゃない、暖かそうな柔らかな光がたくさんたくさん散らばっていて、その街並みを美しく照らし出している。



――――現実からかけ離れた、浮世の世界。



まさにそんな光景が、私の目の前に広がっていた。



「これ、は……」



一体、何が起こった?私は間違いなく、今まで通い慣れた住宅街を歩いていたというのに。
空を見上げれば、地上にこんなに光があるというのにも関わらず、キラキラと瞬く満天の星々。
うちの学校も山の方で、都会よりは星がたくさん見えはするけれど、それの比ではない。


何が起こったかわからずに、私はただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
――――その時。



ザリ……



ふと後ろから足音が聞こえた。
私はハッと息を呑み―――ゆっくりそちらを振り向く。











――――夜を纏った少年が、月色の瞳を真ん丸に見開いて…そこに、立っていた。







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