01



“それ”は、黒の中にぽつんと佇んでいた。

右を見ても、左を見ても、広がるのは闇。

上を見ても下を見ても。

どこを見ても、“それ”を取り囲むのは果てない闇の世界だった。

“それ”は自分を取り囲む闇を見上げた。

そして、フッと笑った。



『……へえ、そんな子がいるんだ』



静かな、けれど何かを楽しむような、弾んだ声。

黒が流れる闇を見上げたまま、“それ”は自身の胸の前で両手を合わせた。



『じゃあ、僕はその子に託すよ。その子なら、きっと―――――』



そこには誰もいないのに、“それ”は語る。

見上げるその先に、“それ”が求めるそれはあるのだと、そう言うように。




『きっと、望む未来を選択してくれる』






















































「天美ーッ!!てめーこんにゃろどーこいったあ!!」



背後から自分を探す怒声が聞こえてきて、私はヤッバと小さく舌を出した。
さっきよりも強く地面を踏みしめ、片手にペンキ、もう片方の手にはハケを持ったまま、放課後で人もまばらな廊下を疾走する。
廊下は走っちゃいけませんなんて張り紙は見えない。うん、私は知らん。
そのままのスピードを維持したまま、教室へ飛び込む。中で作業をしていたクラスメイト達が、一斉にこちらを振り向いた。

11月13日。学生達が間近に迫った文化祭の準備に励むその日は、雲ひとつない綺麗な秋晴れの空が広がった日だった。



「あ、天美ー。遅いよ、何してたの?」

「えー、超頑張って走ってきた私にまず言うことがそれ?ひっで、天美ちゃんのハートは砕けちゃいそう」

「はいはい、んで、頼んでたもんは?」

「まさかのスルー!ちゃんと持ってきたっての、ほら」



呆れたように肩をすくめる友人に唇を尖らせつつ、私は両手にぶら下げていた水性ペンキの缶とハケを彼女に向かって差し出す。
それを受け取り、彼女は満足そうに頷いた。



「ん、ご苦労!白のペンキって、よく使うからすぐなくなっちゃうんだよね!…ところでさ、なーんか廊下騒がしくなかった?何かあったの?」

「や、なんでもないよ。ちょっとそのペンキ取りに行った時にすれ違った委員長の持ってたポッキー掠め取ってきただけで」

「アホか」



ズラッ!とどこからともなく両手から何十本ものポッキーをマジシャンのように取り出してニヤリ。その瞬間、友人からスパンと頭をはたかれた。いってえ。



「だから委員長あんなに怒ってんのか!アンタ委員長のお菓子に手を出すとかどんな勇者よ!しかしよくやった一本寄越せ」

「予想通りの反応ですねってか行動はやい」



寄越せと言うより早く、私の手からポッキーを取って口に放り込んだ彼女に思わず突っ込み。
このポッキーの本来の持ち主である我がクラスの委員長、黒崎いづみ(仮名)は、クラスでも群を抜いて食い意地を張っていることで有名である。なのになんであんなにスタイルいいんだろう。ちょっと理解できませんよねー。
少しだけ体温で溶けて指についたチョコを舌でなめ取りながら、私は椅子の背もたれにかけてあった黒のパーカーを手に取る。



「うし、んじゃ私今日は帰るねー」

「こんにゃろ、一人やること終わったからって」

「時間外労働は今日だけだよん」

「ったく明日はちゃんとあんたがやること用意しとくからね!覚悟しときなさいよ!」

「ほーい、まあ一応時間は空けとく――――」

「天美ーッ!!どこ行ったー!!!」

「げ、委員長もう追いついてきた…じゃ、私はさっさと退散しますかね!」

「はいはい、おっつー」



バサッとそのパーカーを羽織り、鞄を肩にかける。
ひらひらと手を振る友人にニッと笑って手を振り返し、私は教室から飛び出した。



「あ、見つけた天美―――」

「よっす委員長!そんじゃおっさき!」

「あっ、ちょっと天美!?せめてポッキー返せー!!」



悪いな委員長、ポッキーはすでにアイツの腹の中だわ。
掻っ攫ってきたポーッキーを一本だけ咥え、私は委員長から逃れるために再び廊下を走っていった。





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