「帰れと言っただろう。まさかここが、君達の家というわけか?」
「ま、まさか……あの、ごめんなさい。それと………」
恐らく、その先に続く言葉はありがとう、だろう。
だが女性はジュードがその言葉を口にしようとした時には、もう彼に興味を失ったかのように別の場所を見ていた。
私はそんな彼女から視線をそらし、床にへたりこんだままのジュードくんに手を差し出す。
「大丈夫?ジュードくん。怪我とかしてない?」
「あ、うん、平気………えと、トキワは?」
「全然平気。あんまり攻撃喰らってないしね」
そう言ってにっと笑った私を、ジュードくんはぼんやり見つめていた。
が、視線が合って首をかしげると、すぐに慌てたように「なんでもない」と差し出した手を取ってくれる。
女性は例の円筒状の装置にじっと視線を注いでいた。
「…これが黒匣(ジン)の影響………?」
「黒匣…?」
「微精霊たちが消えたのと関係している?」
「え?わからない…。精霊たちが、いなくなって………?」
自分達に話しかけられていると思ったらしいジュードくんだが、一体何を問われているのかが理解できず、困惑する。
「…ああ、君達は早く去るといい。次も助かると言う保証はないのだから」
女性はこちらに視線を戻した。
そのまま踵を返すと、部屋の出口に向かって歩き出す。
「黒匣は……どこか別の場所か」
「ねぇ、待って!」
「何だ?」
「あてがないんだ。教授が一緒なら、ここから出られたかもしれないけど…………」
そう話すジュードくんは、微かにだが震えていた。
…無理もない。あれはトラウマものだ。
「だから……僕も…僕たちも一緒に、行っていい?」
「…ふふ、なるほど。確かにそれなら、次も助かるだろう。理にかなっている。君は面白いな」
「あ、ありがとう…?」
穏やかな微笑を浮かべる女性の言葉を同意と受け取り、ジュードくんは彼女に歩み寄ると手を差し出した。
「僕の名前はジュード・マティス。で、この子はトキワ。……………君は?」
「私はミラ。ミラ・マクスウェルだ」
「マクスウェル…?」
…マクスウェル、ね。久々に聞いた、懐かしい名前だなぁ。
私はジュードくんと握手を交わす女性―――ミラの後ろをちらりと見上げる。
マクスウェルだけじゃない。イフリートに、ウンディーネ。
…四大精霊に、その主の名前。
私はこっそり笑みを浮かべた。
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