∴ 04 オウガテイルが動きを止めている隙にと、チトセが一気に開いてしまった距離を詰める。 そして切っ先をオウガテイルへ向けた次の瞬間、ぐじゅる、という生々しい音がして、チトセの神機の白い剣先を飲み込むかのように、真っ黒い闇が滲み出た。 それは複雑に形を変え、やがて一つの形態へと変貌する。神機の刃よりも巨大で屈強な、上顎と下顎。ずらりと並ぶ鋭い牙状の組織体と、闇色の表面に浮かぶ眼球のような妖しい光が、その禍々しさを一層際立たせる。 どこか、龍にも似た姿の、それ。確かに《神機》の形態の一つなのだが、それは《神機》というよりも――――今まさに目の前で苦悶の声を上げている、《アラガミ》にどこか近しいものがあった。 それは、刃形態でもなく、銃形態でもない。 ――捕食形態(プレデターフォーム) 絶対の捕食者であるアラガミを、逆に《捕食》するための形態。 『新型』と、近距離型神機にのみ可能な、《神を喰らう力》だ。 うずくまるオウガテイルに向かって、チトセはうっすらと笑みを浮かべる。 そして、捕食形態へ変換させた神機をその白い体躯に向かって構え――――― 「喰らえよ、相棒」 蠢く真っ黒い龍を、無防備な姿をさらすオウガテイルの喉笛に喰らいつかせた。 オウガテイルの断末魔が響いたのと、チトセがその体躯から様々な《体の一部》をもぎ取ったのは、ほぼ同時だった。 「…………マジかよ」 そして、その一連の流れを、いつでも乱入出来るよう身構えつつ窺っていたリンドウは、その呟きと共に冷や汗を流した。 ――――まさか、こんな短時間で。 ちら、と懐から引っ張り出した懐中時計を見る。 …任務開始から、僅か一分にも満たない……時間にして、10秒足らずの出来事だった。 「これが………『新型』だってのか…?」 体を淡く光らせながら、よいしょ、とオウガテイルのコアを回収しようするチトセの小さな背中を見詰める。 その、通常の『新人』ではまず考えられない身体能力、テクニック、そして判断。 確かに、ゴッドイーターは神機を扱うため、体内に自らオラクル細胞を移植している。そしてそれは、ゴッドイーター達の身体能力や治癒力にも多大なる影響を及ぼしていた。 ――――だが、それにしたって。 彼女の…チトセの能力は、些か秀で過ぎている気がした。それは、チトセが『新型』だからだろうか?彼女以外に新型神機使いを見たことがないリンドウには、判断しかねるものだった。 …あぁ、今ならあの姉の表情の理由が、よくわかる。 上が何故、SSS+を出したとはいえ入隊して間もない幼子に、早すぎる実地演習を決定したのかも。 「…んぅ?あれが、こーなって…えーと…?」 実力のある人間(モノ)を遊ばせておく余裕はない―――― そりゃーそうだ、とリンドウは溜め息をつきたくなった。 「あの、りんどーしゃ、……りんどーしゃん………リーダー!」 「(噛み噛みで諦めた…)どうした?」 「コアのかいしゅーほーほーがイマイチわかりません」 「えっ」 だが、同時に心配になる。 …幼いとはいえ、これだけの実力を持つチトセ。逆に言えば、実力があれどチトセはまだ幼い。その幼さ故に、つけこまれやしないだろうか。 コアの摘出方法を教えてやりながら、リンドウは脳裏にとある人物を思い浮かべた。 「(―――何か、妙なことを考えてなきゃ良いんだがな)」 コアの摘出はデリケートである、と講義で学んでいるのだろうか。恐る恐る、ゆっくりゆっくり作業を行うチトセの頭を撫で、リンドウは彼女に気付かれない程度に眉を寄せた。 |