ロリーダーがゆく! | ナノ



05



マジでガキだった…と、椅子によじ登る幼女をチラリと見ながらソーマは思う。

相席しても良いか、と訊ねられ、答えずに無視したら何処かに行くだろうと思って黙っていたら、手に持っていたプレートをテーブルに置いて椅子をよじ登り始めた。ここで食べる気らしい。

ざわざわと騒がしい周りの目が、遠巻きにだが自分達に向けられているのを感じる。
ヒソヒソと囁かれる陰口はもう慣れたものだったが、今回は悪口というよりも、驚きの声の方がなんとなく多かった。

両耳につけたヘッドフォンから流れる音楽のボリュームをこっそり上げる。こうすると、周りの『雑音』が少しだけ聴こえなくなる。



「っしょ!よし、んじゃ、いただきまーす!」



とかなんとかやっていると、漸く椅子に座れたらしい幼女が、パンっと顔の前で手を合わせた。
大きなトウモロコシの粒を一粒一粒手でむしり取り、口の中に入れていく。
通常のトウモロコシよりも大きく品種改良されたそれは、一粒とはいえ小さな少女の手に握られたのを見ると、余計に大きく見えた。



「むぐ、…あ、えーっと、はじめまして。先日このきょくとー支部にはいじょ…はいぞくっ!…されました、暁チトセです」

「………………」



噛んだ。表情にも声にも出さないが、ソーマは内心そう思った。
だが、反応してやる義理はない。ソーマは黙々と食事を続ける。
その間も、幼女はソーマに対してしきりに名前は?どこの部隊?と質問を投げ掛けてくる。が、ソーマはそのすべてを黙殺した。
むぅ、と幼女が拗ねたように頬を膨らませる。………子供とは単純で、厄介だ。だがそれと同時に、扱いやすい面もある。
こうして無視をし続けていれば、いずれは癇癪を起こすか、相手にしてもらえないとわかって何処かへ行ってしまうだろう。
別にどちらでも構わない。どちらにせよ、ソーマはこの子供と関わるつもりなど毛頭ないし、後者ならば手間がかからず楽、前者だとしても無視し続けていればいい。
現に、さっきまで喋りかけてきていた子供は、何を言っても反応しない自分に対して、既に口を閉ざしている。
そのまま、さっさと何処かへ行け。
ソーマは空になった皿にスプーンを置き、傍に置いてあったグラスに手を伸ばした。


その時。



「おにーさん」

「………………………」



今まで黙り込んでいた子供が、口を開いた。

そして、続けられた言葉は――――



「おにーさん、すごーくきれーだねぇ」



今までの膨れっ面はどこへやら。彼女はふにゃり、と表情を崩すように笑い、ソーマに向かってそう告げた。



―――――きれ、い?



一方のソーマは、何を言われたのか一瞬理解できなかった。
きれい、きれい…綺、麗?綺麗と、言ったのか。この、ガキは。

周囲がざわめく。驚愕の視線があちこちから突き刺さる。


―――綺麗。


それは、生まれてこの方、ソーマが一度として言われたことなどない言葉だった。
言葉の意味は、知っている。美しいものに対する言葉で、誉め言葉としても使われる。よく、同僚である橘サクヤや、上官の雨宮ツバキがそう言われているのを耳にしたことはあるが、その言葉が、自分に向けられたのは、初めてで。


綺麗?何が?誰が?

――――俺、が?



「…………ッ!」

「え、あ、おにーさん?」



がたん、と荒々しく席を立つ。
驚いたような幼女の声が聞こえたが、今のソーマにそれを気にする余裕はない。

綺麗。何よりも醜い、この俺が?

ぐるぐる、ぐるぐる。
あの言葉が、回る。
多分、あの子供にとって、その言葉はそこまで深い意味を持ったものではなかったのだろう。
ただ、口からこぼれただけの、言葉。


何気ない、だからこそ。



「なんなんだ…アイツ…」



――――その言葉が嘘偽りない『本心』であることが、ひどく彼を動揺させた。






(そんなファーストコンタクト)