ロリーダーがゆく! | ナノ



03




…おい。
目を閉じたってことはスルーかよ。まあいいがな!

私は遠慮なく彼の向かいの席に座った。
ソーマを見る。無反応。オイ。

しかし背の低い私がよっこらせと椅子によじ登ると、ちらりと視線が向いたのを感じた。が、残念ながら私にそれを気にする余裕はない。今の私の敵は、この大人サイズで今の私には中途半端に高い目の前の椅子である。
うーむ、いつもはコウタが頼む前に率先して椅子にあげてくれるんだがな。アイツおそらく私を自分の妹と同じ扱いしてるだろ。なんかそんな感じがする。
しっかし、幼女はこういうのが不便だ。背がちびっこいから皆が意識すらしないで出来ることも出来ないし。油断してたらテーブルの角におでこぶつけたこともあったし。サカキ博士にも抱かれたし。断じていかがわしい意味ではない、健全に抱っこという意味だ。(※第三話参照)



「うっしょ、よし!んじゃ、いただきまーす」



なんとか椅子によじ登り、お皿をテーブルの上においてパンッと手を合わせる。…しかし、椅子もテーブルも高さが大人用なので地味に食べづらい。高さが中途半端!決して私の座高が低いわけではない。ええ、決して。幼女だから仕方ねーだろ!

ちょっと心が荒みかけたところで思考を止め、大きなトウモロコシの粒をむしり、ぽいっと口の中に入れる。そこで改めてソーマを見た。

深く被った深藍のフード、褐色の肌に、綺麗な銀髪。うん、やっぱ美人だ。実際に見るとものすげー美人だ。伏せた瞼から伸びる、髪と同じ色の睫。うわあ長い。こんな人が私の世界にいたらすっげーモテモテだろうなあ。

にしても、トウモロコシ食べづらい…。こりゃ、ゲームの冒頭でサクヤさんが嫌がってた理由もわかるなー。



「むぐ、…あ、えーっと、はじめまして。先日このきょくとー支部にはいじょ…はいぞくっ!…されました、暁チトセです」

「………………」



再び無視かオイ。
相変わらずの舌ったらずで、思いっきり噛んでも無反応とか私が恥ずかしい。噛んだだけで恥ずかしいのにさらに恥ずかしい。



「(うーん、実際に見るとマジ無愛想)」



しかし私はめげない。絶対めげない。
今からちょっとがんばるんで遠巻きに見てるギャラリーの皆さん、ちょっとあっち行っててくれませんかねこんにゃろー。見せモンじゃねーぞこらー。



「おにーさんのお名前は?」

「………………」



無視。



「おにーさんどこの部隊?」

「…………」



ハイ無視!



「…おにーさーん?」

「…………」



ここでも無視かよ。
…と、よく見ると、フードの下から、何やら赤いコードが覗いている。
おい、こいつヘッドフォンしてやがる。いやでも実は聞こえてるだろおにーさん。

むぅ、と唇を尖らせ、私は頬杖をついた。
仕方ない。私はトウモロコシを咀嚼しながら、じーっとソーマを観察し始めた。
音楽を聴きながら黙々と食事をするソーマ。私の存在なんてまったく気にも留めていない。それを少し寂しく思いながらもじっと見続けていると、ゆっくりとソーマが皿の傍らにあったコップに手を伸ばした。

…おい、顔だけでなく手も綺麗とかどういうことなの。
そんなことを考えていた私は、頬杖をついたまま―――無意識のうちにぽろりと、唇から言葉をこぼした。



「……おにーさん」

「………………」

「おにーさん、すごーいきれーだねー」

『!!?』



えっ?
何このすげえどよめき。
今の言葉にどこに反応したんだろうか。

ちょっと戸惑いながら、ソーマに視線を戻す。



ソーマは、大きく目を見開いたまま固まっていた。



「え…えっ?」



ちょっ、何その反応……。



「…………」

「え、おにーさん?」



私の方が呆然としていると、不意に彼はがたん、と荒々しく席を立って。
ソーマは、そのまま何も言わずに食堂から立ち去ってしまった。
…………な、



「…なんだったの………?」



わけのわからないまま、私は空っぽになった席と、テーブルの上に残された食器をただ眺めているしかできなかった。