∴ 01 朝の食堂は、自分が想像していたものより混雑している。 まあ、それでも居住区の配給のときよりは圧倒的にマシなんだけど。 あれはある種の戦争だ。 数日前は当たり前だった日常を思い出しながら、私は配膳カウンターへ向かった。 「あれ、チトセじゃん」 「あ、りっかちゃん!」 配膳カウンターへ向かうと、極東支部が誇る凄腕整備士、楠木リッカがこちらを見つけて声をかけてきてくれた。 今日も相変わらずホッペにオイルつけてますね、そんなところも愛らしい。 「今からご飯?」 「うん!りっかちゃんも?」 「ううん、あたしは今終わって食器返したところ。いつもはもっと早いんだけど、本部から新しいパーツが届いたから夢中になっていじってて…つい貫徹しちゃってさ」 おい、それ大丈夫か。 よく見ると、リッカちゃんの目の下には明らかにオイルとは違う、うっすらではあるが隈が浮かんでいた。 しかし本部から届いた新しいパーツとやらの話をしているリッカちゃんは、ものすごくその…恍惚とした表情をしている。 ここが私の世界…というか、平和だった時代なら、リッカちゃんってもしかして機械オタクに…いやなんでもない。 「そういや、コウタくんは?いつも一緒なのに」 「こーたねぇ、朝からはかせのところで講義なんだって。きょーかんが教えてくれた」 「あらら、それはご愁傷様」 そうなのだ。 ゴッドイーターになってから数日、ご飯は基本コウタと摂っていたのだけれど、今日は早朝からコウタに講義が入ってしまったらしい。 ………コウタ、私と一緒に博士の講義受けてるとき寝てたもんね。爆睡してたもんね。それがバレてツバキ教官に正座させられてたもんね。私知ってる。博士も知ってる。みんな知ってる。 「あ、そういえば」 「ん?」 「ありがとね」 「うに?なにが?」 「チトセが配属してくれたおかげで、本部から新型神機用のパーツが届くようになったんだもん。もう毎日楽しくて楽しくて」 「お、おう…」 そうなんだ、そのパーツって新型の奴なんだね…。…楽しそうだね、リッカちゃん……。今の君すごく輝いてるよ……。 「今はまだどう使うのか研究中だけど、それが終わったらチトセの神機改良してあげるね」 「! ほんと?」 「うん、ほんとほんと。期待しててね」 「ありがと!りっかちゃんだいすき!」 そう言ってどさくさに紛れて腰に抱きつけば、リッカちゃんは少し驚きながらも笑顔で受け止めてくれた。ふはは、役得役得。ただしオイルのニオイすげえ。 「…そうだ、ツバキさんから聞いたんだけど…………チトセ、今日この後任務なんだって?」 「うん、『ういじん』!」 早くねぇか、と心の中で突っ込んだのは比較的新しい記憶である。だってコウタはまだ訓練受けてるんだぜ?同時期に配属されたのに私の初陣早すぎだろ。 …ま、あの訓練の成果を見たら、そうなる予感は薄々してたけどね。 「…気を付けるんだよ?」 リッカちゃんが、すごく心配そうな顔で私の目を覗きこむ。 「訓練の成果は凄いって聞いた。でも、実戦は訓練とは違うから。初陣で命を落とした神機使いだってたくさんいるんだから」 「…だいじょーぶだよ、りっかちゃん」 不安げに瞳を揺らすリッカちゃんに、私はにっこり笑って見せる。 「だいじょーぶだよ、ぼく死なない。ちゃんとお仕事して、りっかちゃんに『ただいま』って言うの」 だから、だいじょーぶだよ。 そう言って、またぎゅっと抱きつく。 耳元で、リッカちゃんがフッと小さく笑ったのが聞こえた。 「…うん、そうだね。わかった。神機の整備は任せて。万全にしておくから…だから、ちゃんと帰ってくるんだよ?」 「うん!」 じゃ、あたしは保管庫で神機の点検してくるからと、リッカちゃんは手を振って食堂を出て行った。 さてと、それじゃあ時間もちょっと押してることだし、私も急いでご飯ご飯…。 ×
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