∴ 04 「似合う似合う!超可愛いじゃん、チトセ!」 「え、えへへー…ありがとう…」 ありがとうじゃねーよどういうことだコノヤロー。 私の今の格好を見て嬉しそうに手を叩くコウタに愛想笑いを浮かべつつ、私は心の中で悪態をついた。 結果的にいえば、クローゼットの中に入っていたのは服だった。それもグローブからブーツまで揃っているという徹底ぶり。 今まで着ていた服は、正直あまり戦闘には向いていなかったから、服の支給はありがたい…のだけれど。 「(何故普通の服じゃないんですか支部長ォォォォォ!!)」 ニコニコと笑顔を振り撒きながら、私は心の中だけで全力で叫んだ。 支部長からいただいた服は、スカート丈がそこそこ長いデザインの、とても可愛らしい……その、いってみれば、……………ゴスロリちっくなお洋服でした。 いや、そこまでレースがひらひらしてるとかはないよ?無いけど、まぁジャンルに分類するならそっち系…だろうな、うん。 支部長……どういうことなの……いや、姿見で見てみたら、このすげー可愛い幼女の外見にぴったりの、めちゃくちゃ可愛いお洋服だよ?可愛いよ、可愛いけどさ…………。 …これ、貴方の趣味なの……?…どーなの? と、いうかこれ、服着るときにちらっと見えたんだけど。上着の背中の所に、ちゃんとフェンリルのマーク入ってたんだよね。 つまり、この服はフェンリルの公式というわけで………。 …えっ、余計にどーなの? 「あとはそうだな…チトセ、ちょっとこっち来いよ!」 「?」 まぁ確かに、見た目によらず今まで着ていた奴よりは動きやすいし、ブーツもヒールはちょっと低めで、足に負担もかからないようになってる。タダでこんな上物の服もらえたわけだし、ポジティブに考えるんだ、私。 と、鏡を覗きこんでブツブツと自己暗示をかけていたら、今まで悶えていたコウタにちょいちょいと手招きされた。 とことこと近付くと、ここ座って、とベッドを示される。首をかしげつつ言われた通りにベッドに座ると、コウタはよいしょ、と私の後ろに回り込んだ。 「こーたー?」 「ちょっとじっとしてろな」 「? あーい」 言われた通り大人しくしていると、不意にコウタが私の長い髪を掴んだ気配がした。 そのまま、どこから取り出したのだろう。ブラシを使って、私の髪を鋤いていく。 「うわ、さらっさら。チトセ、いいシャンプー使ってんの?」 「しゃんぷー、つかってないよー」 「え、そうなの?じゃあ髪は何で洗ってんだ?」 「石鹸」 「男らしい!…っじゃなくて、え!?石鹸!?」 「うん、石鹸!」 ははははコウタよ、このご時世に一般人がシャンプーなんて高価なものにそうそうありつけるとお思いか。 まぁ、確かに最初は髪がっざがっざしたけどね。がっさがっさじゃないよ、脂が落ちてがっざがっざになったんだよ。 にこにこと語る私に頬をひきつらせながら、コウタはササッと手を動かしていく。 そして、待つこと数分。 「…よし、できた!」 「…?」 終わったらしい。何をしたんだろう、と思っていると、コウタが手鏡を取り出して私に向けた。 「じゃーん!サイドテール!」 覗きこんだ鏡の中では、藤色の髪を頭の左側で綺麗に纏めた私が、不思議そうな顔でこちらを見つめ返していた。 大きな可愛らしいリボンもついている。おお、すげー可愛い。可愛いけど、でも。 コウタ、お前何故こんなこと出来るんだ…。手つきも出来映えも凄く手慣れた感じだぞ……。 コウタを見ると、凄く満足げだ。 「いやー!いつも妹の短い髪は弄ってたけど、チトセみたいな長い髪は初めてだったからなー!でも可愛く出来たから良し!」 なるほど、シスコン故か。理解した。 「こーた」 「ん?」 「ありがと!」 でも、可愛いのは事実なので。 にぱっと笑ってお礼を言えば、コウタも嬉しそうに破顔した。 余談ではあるが、この日から私の髪型がサイドテールに固定された。 ×
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