∴ 02 藤木コウタは戸惑っていた。 つい先程、自分はゴッドイーター適合試験に合格し、「教練担当の者が来るまでエントランスにて待機」と言われたばかり。 高揚する気持ちをなんとか抑えつつ向かったエントランスには、笑顔の可愛い受付嬢、部屋の隅で品物を広げている、何やら胡散臭い商人、そして、 「………………」 「………………」 「………………」 「………………」 幼い子供の姿があった。 え、何これどういうこと? エントランスの隅にあるソファーに腰掛け、暇そうに足をぶらぶらさせている幼女…いや少女。見た感じは10歳前後だ。多分、自分の妹より少し下か、同じくらい。 そんな年端もいかぬ幼い少女が、何故屈強(※コウタイメージ)な強者(※コウタイメージ)揃いのフェンリル関係者が集まるこの極東支部内にいるのだろう。…ここに勤める職員の誰かの、妹とか娘とか? 内心首をかしげながら、しかしこんなところで一人暇そうにしている幼女…少女を放っておけるほどコウタは薄情なつもりはなかったので、まぁ時間もありそうだし良いかと、笑顔で少女に声をかけた。 「やぁ、初めまして!」 まずは挨拶から。 ぴくん、と肩を跳ねさせた少女は、不思議そうな顔でコウタを振り向いた。 「こんなところでどうしたの?誰か待ってたりするかい?」 「…うん」 こくん、と少女が頷いた。 やっぱり兄姉か親かな、と考えながら、コウタは少女の隣に腰かける。 「へぇ、そうなんだ。あ、良かったらその人が来るまで兄ちゃんとお話ししない?兄ちゃんも人を待ってるんだ、それまでお互い暇だしさ」 「………………」 ニコニコと笑いながらそう話を持ちかけるコウタを、少女は丸い目でじいっと見つめていたが、やがてこっくりと頷いた。 よし、怪しい人とは思われてない! 「あ、名前何て言うの?兄ちゃんはコウタ、藤木コウタっていうんだ」 「暁チトセ…」 「へぇ、いい名前じゃん!日本人?」 「うん」 「じゃあおんなじだな!」 「? おんなじ?」 「そ!おんなじ日本人!」 そう言うと、少女――――チトセはぱちくりと目を瞬いた後、安心したように笑った。 ふわり。 花が綻ぶような、微笑み。 「(…う、わ…………)」 可愛い。 コウタの頬にさっと朱が走った。 自分の妹とは、また違った可愛らしさ。元気で明るい、無邪気な妹とは逆に、大人しくて、どこか儚い印象を受ける。 今まで無表情だったチトセの初めての笑顔に、柄にもなくドキリとしてしまい、コウタはハッと我に返った。 「(や、待て、落ち着けオレ。オレはロリコンじゃない。うん)」 「こーた?」 急に黙り込んだコウタを、チトセが不思議そうな眼差しで見上げる。 具合、悪い?そう訊ねられて、慌てて首を振った。 ―――その時、だった。 カンッ!と鉄の床を踏みつける高い音がして、目の前に真っ白な服を着た女性―――――雨宮ツバキが現れたのは。 |