き虫な君に。


それは唐突だった。
部屋で雑誌を読んでいると、インターホンが鳴って誰だとか思いながら少し重い扉を開けるとそこには水色があった。
黒子だった。

「か、がみ…くん…」

掠れた声。
そこには、目に涙を溜めた黒子がいた。

「黒子!?お前、どうしたんだよ!?なんで泣いてっ…」

慌てて黒子を玄関へ招き入れると、今まで我慢していたのかせきを切ったように泣き出した。

「うっ…うあぁぁぁあっ…!もうっ、やだ…いやだ…!ぼくぼくはっふぇ…」

ぎゅ、と泣きつくように俺に抱きついてきて、えんえんと子どものように涙を流す黒子。
なにがなんだか分かんなくて、とりあえず抱きしめ返して背中を優しく叩いた。
が、逆効果だったらしく黒子はまた泣き出す始末。(なんでだよー!?)

「かがみくん、かがみくん…!うぇっ…うわぁぁぁっ…もうやだ、やだ…やなんです…!」

「ちょ、マジどうしたんだよ…!やだってなにが?なんかあったのか?」

「ふぇ、かがみくん、ぼくをすてないで…!もうひとりはイヤなんですっ…」

顔を俺に押し付けながらさらに泣く黒子を見て、すぐに察した。
はー…とため息をついて黒子の肩に手をおき、引き離す。
嫌がる黒子の頭を撫でてから、黒子の目の前にしゃがみ目線を合わせる。(うわ、目ぇ真っ赤)

「また、見たのか?」

こくん、と俺の問いに小さく首を立てにふる。
こうやって黒子が泣きじゃくるのはここ最近見慣れた光景だった。
見るのは、夢。
キセキの世代の夢。

「最近多いな。…ほら」

手を広げると躊躇いもなく抱きついてきた。
そのまま黒子を抱き上げてリビングに行き、ソファーに腰をおろした。
黒子を離そうとしたが、こうなった場合離れることは滅多にない。
仕方なくそのままにして黒子を撫でると小さく声を出した。

「あお、みねくんが離れていくんです…待ってっていっても…聞こえないみたいで…ひくっ…さきに、進んじゃって…」

何回目だ。とつっこみたかったが我慢してまた頭を撫でる。
黒子は、黄瀬を始めとするキセキの世代に再会してからよく帝光の夢を見るようになっていた。
楽しいものもあったらしいが、ほぼほぼキセキの奴らが離れていく夢だったらしい。
特に青峰が離れていく夢が多いらしく、コイツのメンタルはぼろぼろになってしまった。
そして、俺だけに涙を見せるようになった。

正直、黒子のメンタル壊しやがってキセキの奴ら。とか思ってる反面、黒子にとってそれだけキセキが大切であるということにショックを覚えたのも確かだ。
だけど、受け止められるのは俺しかいないことが嬉しくてこうやって抱きしめるのだ。(少し歪んでるかもしれねーけど)

「…大丈夫だよ。俺は青峰と違って離れてかねーしお前だけ置いて先になんか行かねーよ。光と影は常に共になきゃいけねぇんだろーが」

ピシッとでこぴんを黒子にしてやると、泣いて上擦った声で、いたいですと小さく反論した。

「お前が離れろつっても俺は絶対離れてやんねーからな。覚悟しとけ、黒子」

ニッと笑いかけて涙を拭いてやると、またぼろぼろと泣き出した。

「かがみくん、これ以上泣かせないでください、ばかばかっ…」

「泣かせるつもりねーんだけど…。ほんと仕方ねーヤツだな、お前」

「すみませんね、仕方ないヤツでっ…」

拗ねてぐずぐずと涙を拭う黒子に微笑んで、ぐしゃぐしゃに髪を撫でて、目元に口を寄せて涙にキスを落とした。

「いーよ。そういうお前が大好きだから。」


泣き虫な君に。
(涙が無くなるぐらいたくさんの愛をあげる)



2013.03.08.
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