優しい嘘で偽って。


ふらり、街中を彷徨いていると聞こえた小さい、聲。

「(信乃?…何かあったのか?)」


いつもの明るさがみえないことが気になって足早に信乃の元へ向かう。
帝都の旧市街のはずれ、荘介の玉を盗んだときに会った場所に信乃はいた。


「やぁ、信乃。また呼んでくれたね。嬉しいよ」
「…蒼…?」
「うん、まぁ俺も荘介なんだけど…ってまぁいいか。」
「……蒼」
「なあに、信乃。元気ないけど腹でも減ってるの?それとも荘介とケンカでもした?」


手をはらわれる覚悟でするりと信乃の頬を触って、そのまま包み込む。


「蒼は、あったかいな…」


そう呟いて、すり、と手を抱きしめるように掴む信乃。
えーっと…?


「し、信乃?なにがあったわけ、本気で」
「…いろいろ」
「それじゃ分かんないから聞いてるんだけど?ほら、ちゃんと顔見せ、て…信乃!?」


少し無理やり上げさせた顔には、泣きはらして赤くなった目と涙のつたったあとのある頬。
珍しすぎて、つい可愛いかもとか思った。


「泣いた、よね。どうしたの?」
「っ…しゃがんで、蒼」


目を伏せて、俺のマントを引っ張り、しゃがめと訴えてくる。


「(いつもの信乃じゃないから調子狂うなぁ)」

しゃがんで信乃に目線を合わせる。まだ手は握られたまま。


「…そんな泣いて、どうしたの」
「ふっ…え…」
「えっ!?ちょっちょっと信乃!?」
「あおの、て、あったかい…そう、あったかくない…」
「…あぁ…」


また、荘介のことで泣いてるのか。そう思うと腹立ってくるけど、泣く信乃を放っておくほどSではない。


「うん、それで?」
「おれ、荘、だいじだけど…蒼もだいじになってっ…どうしたらいいか、分から…ないっ」
「え…」


衝撃的。と言えばいいのだろうか。
“蒼もだいじ”
たしかに信乃はそう言った。変な高揚感。


「ありがと、信乃…」
「おれ、どうしたらいいんだ…?も、やだ…やだよ…蒼っ」


ぐるり、信乃の細い腕が俺の首にまわる。抱きつかれてる…?


「えっ!?信乃!?」
「うっ…ふえ、うえっ…おれ、おれっ…」
「…大丈夫、きっと大丈夫だから。ね、信乃」
「あお…?」


信乃の頬に手を添えて、にこりと微笑む。
ぐずぐずと鼻をすするのも子どもっぽくてまた可愛いなぁとか思う。
実際、大丈夫じゃないだろうし、きっと俺か荘介のどちらかは消える。もとから居なかったように。

信乃はどっちを選ぶんだろうね。
でも、今の信乃にこの質問は酷だと思った。


「よしよし、大丈夫だから。信乃は生意気に笑っといてよ。ね?」


ぎゅ、と優しく抱きしめて柔らかい髪に顔を埋める。

ふわふわ、

君は俺の大事な人だから。
分からない未来でも、大丈夫って言ってあげる。


「きっと、大丈夫だから」


たとえ抗えない未来だとしても君の笑顔が見れるなら、俺はたくさん嘘をつこう。
叶わない想いを持っていても。


「信乃、笑って。いつもみたいに生意気言ってよ。まるでガキだよ?」
「っ…うるせ、ばーか!」
「いたたっ髪引っ張らないで!ったく、信乃!」


もう一回、信乃を腕の中へ引き込む。
あー、今の俺、荘介は出来ないことしてる。だってこんな低レベルなことを信乃は荘介とはしないから。(あ、四白とはするのかな)
ちら、と盗み見た信乃は笑顔で。
嘘に近いことを言ってるのが若干心苦しい。


「(でも…離したくないなぁ)」





優しい嘘で偽って。
(だけど、内心は君を独占したい)


2013.08.23.


―――――――――
信乃に甘えられて困惑する
蒼を書きたかっただけですはい。


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