ントポーリア、はじめまして。



放課後、見当たらない小林を探して図書室を覗くと、そこには小林ではなく高崎がいた。



「げ」



思わず声をあげると、高崎はあからさまにため息をついてこちらを見た。



「人の顔見てその反応はないんじゃない。…親和探してるの」



疑問符がついてるのかついてないのかよく分からない問いかけにとりあえず頷く。
そしたら笑われた。



「んで笑ってんだよ!?」

「いや…お前さ、俺のこと嫌いなんだろ。なのになんでそんな素直に頷くわけ?面白いな、お前」



もちろん声を出して笑ってるわけじゃない。
シニカル、感じ悪い…

てか褒められてんのか貶されてんのか…



「…うっせ。つかお前、俺のこと馬鹿にしてるだろ」

「してるけど?実際に頭悪いだろ」

「こっの…っ!」



否定できない自分にムカつく。
高崎は学年首席だし、俺は足元にも及ばない。



「…親和探してるんじゃなかったの」

「は!?…探してっけど、」



頷きながら図書室に足を踏み入れると、図書室独特の紙の匂いが全身を包む。

奥にある机を見るとちらほらと人はいたが、小林の姿はなかった。
本を選らんでるのかと思って本棚を見てまわる。



「小林が好きそうな本…」


呟きながらいつも小林がいる文庫本のコーナーへ向かうと、そこには高崎がいた。



「ちなみに言うけど、親和いないから」

「はぁ!?なんでさっき言ってくんねーんだよ!?」

「教える義理ないし」

「む…」



こいつが言うこと、なんでこんな正論なんだ。とか思ってたら高崎が本を片手に近付いてきた。
なんだよと聞こうとした途端に高崎の手が俺の口を塞ぐ。



「ンッ!?」



驚いたからか力がうまく入らなくて、なんとか本棚に手を回してギリギリで立った。



「…驚きすぎ」

「ふっ!!んーぐ!」

「何、意味分かんないんだけど。…お前、ほんと面白い。親和が気に入るヤツってそういないから気にはなってたけど…いいね。」



シニカルな笑みと共に発せられた言葉に疑問符を出さずにはいられなかった。

離せ、そう叫ぶと(といってもきちんとは叫べてない)高崎はさらに笑みを深くする。
本棚で完全に死角なここに助けは来るはずない。



「この状況、親和が見たらどう思うのかな。アイツだったらどうも思わないかもだけど」



親和が見たら。



俺はその言葉に対して異常なまでの拒否を示した。

見られたくない、見せたくない。

その一心で拳を高崎に向けてくり出した。
が、いとも簡単に組伏せられて両手を捕られ、ダンッと強く本棚に押し付けられる。



「なんでそんなに嫌がるの?…もしかして、親和こと好きなわけ?」

「ふぐっ…!ん、むっ」

「肯定した?それとも否定?」



なぜか俺は縦にも横にも首を振らなくてただ捕られた手をなんとかしようともがいていた。



「…ねぇどうか言ったらどうなの」

「ッー…!?」



するりと高崎が俺の首もとを撫で上げた。
全身がざわざわして不愉快でひたすらもがいた。
それを見かねてまた手が伸びてくる。
触んな、と抗議しようと声をあげようとした瞬間、目の前に藍色が広がった。



「っ…啓吾、相原に何やってんの?」



少し肩が上下している小林が俺と高崎の間に自分の持っていた藍色の本を差し込んでいた。

同時に高崎の手が離れる。


「っぷは…!こ、ばやし…?」

「…啓吾、このこと今度詳しく聞くから。相原、立てる?帰ろう」

「え、小林?ちょ、わ」



小林に手首を掴まれて立ち上がるとそのまま引っ張られて図書室から出る。
高崎を振り返ると、何かを呟いていた。



「…随分とご執心じゃないか、親和。」

「相原、走るからね。」



小林の言葉が重なって、高崎の言ったことは聞こえなかった。





***





しばらく走って自転車小屋に着いても小林は俺の手首を握ったままだった。



「はぁっ、はぁっ…小林?」

「…啓吾と、なにしてたわけ」

「なにもしてねーよ!アイツが急に口塞いできて…」

「…珍しいこともあるんだね、お前が図書室にいるなんてさ」



トゲのある言い方にカチンとくる。
なんで小林、怒ってるんだよ。



「…別に、俺が図書室にいたっていいだろ」

「へぇ、理解できる内容の本合ったんだ。よかったね。」

「テメ、馬鹿にしてんのか!」

「どうだろうね。帰るんでしょ、お店間に合うの」



時計を差して小林が言う。
叔母さんの店にはかなり急いで行かなきゃいけない時間だった。



「やっべ…!」

「じゃ、頑張って」



チャリを持って小林は正門へ向かう。俺は裏門から出るからこのまま別れることになるのを考えたらなんかいやで小林、と声をあげた。



「何、あいは…」

「さっきはありがと…な!その、ほんとはめちゃくちゃ助かった…」



小林の顔を見ると目を見開いて驚いてて、こっちが驚いた。
急に下を向いたと思ったら小林は笑って「ごめん、聞こえなかったからもう一回言って」と言うのだった。


こいつ、絶対聞こえてる!!


「おっ前…くっ、ほんといい性格してるわ…。二度も言うかっ!!じゃーな!」



そう叫んでチャリに乗る。

若干赤くなった頬と軽くなった身体に当たる風が心地よかった。






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