桜の花、新しい風
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ひらひらと桜が舞う中で空を見上げる。
手を伸ばして掴もうとすれば、ひらり…と手を擦り抜けた。
「やっぱ綺麗だな…」
大きな公園の桜並木から少し外れた小さな丘。
一週間前、京都に引っ越してきて見つけた場所。
公園の桜並木に比べれば桜は多くないし迫力や豪華さはないけど…
静かに咲いてる桜は綺麗なだけでなく独特の儚さがある。
俺は、それが好きだった。
「何で皆この良さが分かんないかなぁ…」
そう言ってもう一度手を伸ばした時だった。
「何の良さが分かんないかなぁ?」
「っ…!!」
背後から聞こえた声。
振り返るとチャラそうな男が3人。年は高校生くらいだと思う。
俺は何も言わずに睨み付ける。
そんな事は気にせずに近づいて来るソイツら。
正直、嫌な予感しかしない。
「一人でお花見してるの?寂しくない?」
「君カワイイのにさ。何なら、これからオレ達と遊ぼうよ♪」
嫌な予感的中……
思わず溜息が零れる。
母親に似た為か俺は女に間違われることがあり、こうやってナンパされることも度々ある。
その度に、ナンパしてきた奴らを殴っていたりする。
「あの…アンタ達と遊ぶ気なんて無いんで、そこ退いてくれない?」
「嫌だってって言ったら?」
そう言うと、俺の手首を掴む。
力尽くでどうにかするしかないみたいだ。
ぐっ…と拳を握り、取り敢えず目の前の奴から片付けようとした時だった。
「嫌がる子を無理矢理連れて行こうとするなんて、最低やな〜」
「誰だ…?」
がさ…と音がして、視界に入ってきたのは一人の男の子。
歳は俺と同じくらいだろう。
「そんなんやと、モテませんよ?」
「んだと!?」
男の子の言葉を聞いて、俺に絡んでた奴らの一人が男の子に掴みかかる。
「おい!やめっ…」
仲間の言葉も聞かず…
「…っ!!」
そいつは男の子を殴った。
…いや、殴ったハズだった。
「当たらなかったら意味ないで?」
男の子はするりと不良の攻撃をかわした。
それから──────────
「…終わりですか?」
さっきと変わらずへらへらと笑う男の子と、息の乱れてる不良達。
全ての攻撃をかわされ不良達は大分疲れていた。
「チッ、行くぞ」
リーダーっぽい奴がそう言うと、全員消えていった。
不良達がいなくなると、男の子は俺の元に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。ありがとうございました」
俺がそう言うと、男の子は微笑んだ。
「俺は可愛い子が無事で良かったですわ」
……可愛い?
今、可愛いって言った?
まさか、この人も俺のこと………
「あのー…勘違いしてるっぽいから言いますけど…俺、男なんですけど…?」
「……」
「………」
「……………えぇぇ!?」
反応遅っ…!!
てか、そんなに驚く?
俺はそんなに女に見えるのだろうか……
そんな事を考えてたら、スッ…と顔を近付けられる。
「え、なっ……!?」
わたわたと慌てる俺の事なんて気にせずに口を開く。
「本当に女の子なん?色白いし、睫毛も長いし……」
「ちょ……」
じっ、と顔を見られるのが恥ずかしくて何も言えずに黙っていると…
突然、携帯の着信音らしき音が聞こえてくる。
「はいはい、柔兄?」
携帯を取り出し話し始める男の子。
「おん。もうすぐ帰るで。それじゃ…」
帰っていいのか分からず動かずにいると、電話が終わったのか携帯を閉じる音がした。
「ふぅ……それじゃ、俺は…」
くるりと俺の方を向き、へらりと笑う男の子。
「あ、ありがとうございました…!」
もう一回お礼を言うと頭をポン、と叩かれた。
「もう、襲われんようにな」
そう一言いって、その人は走っていった。
「…もう襲われねぇっての」
小さくなっていく背中を見ながら、ぽつりと呟く。
ふわり、と暖かな風と一緒に桜がひらひらと散っていった。
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どうも管理人の熾音です
やっと一話更新!
エセ京都弁すみません…
季節感を完璧に無視していきますので((
よろしくお願いします