「あ、やっば…。」
「どうしたのだよ高尾。」
「忘れ物した。」
練習も着替えも終わって早く帰ろうと鞄を手に取った時、机の中に課題を入れっぱなしだったことを思い出した。
いつもなら、明日でいっか…となるが今日忘れたのは明日提出の課題で、しかもこの課題を出したのは提出物やら授業態度やらに関してうるさい先生だ。
取りに行くしかない。
「ちょっと俺教室に取りに行ってくるわ。あれだったら真ちゃん先帰ってて。」
じゃーな!、なんて真ちゃんに手を振って部室を出た。
あーあ、今日は早く帰ってこいって母さんに言われてんのに…。
今日は11月21日で俺の誕生日だ。
『あんたの好きなもの作るから早く帰ってきなさい。』
と、朝家を出るときに母さんに言われた。
高校生にもなって誕生日ではしゃいだりなんかはしないが、祝ってもらえるのはやっぱり嬉しい。
少しスピードを上げて俺は教室へと急いだ
* * *
「アレ…?」
教室にはまだ明かりがついてた。
もう最終下校時間ギリギリだし、こんな時間まで残ってる生徒なんているわけない。
電気消し忘れたんだな、なんて思いながら扉を開けた。
「…え、」
窓側の前から二番目の席に、一人の女子がいた。
机に突っ伏していて俺に気付いてないところをみると、多分彼女は寝ているんだろう。
そって近づいてみる。
静かに規則正しい寝息をたてながら彼女は寝ていた。
えーと、こいつ名前何だっけ?
……………あぁ、みょーじだ。
みょーじなまえ。
「………………。」
…うん、こいつをこのままにはしておけない。
もうすぐ下校時間になるから学校閉まるし。
「みょーじ、みょーじ。」
取り敢えず名前を呼んでみるが起きそうにない。
「おーい、みょーじー。」
「んー…あと、5分……。」
「ぶっ………!!」
え、ちょ、こいつ後5分とか、普通過ぎだろ…!!
あ、なんかツボった。
数分笑って落ち着いたところで、小さな声が聞こえた。
「っ…んー……」
どうやらみょーじが起きたようだ。
「おはよーさん。」
「……たかお、くん…?」
みょーじに声をかけると、寝起き特有の少し幼い声で返事が返ってきた。
みょーじはしばらく俺の顔を見た後、突然椅子から立ち上がった。
「え、え…た、高尾君…!?」
目がちゃんと覚めたのかさっきよりもはっきりした声で名前を呼ばれた。
「ど、どうしてここに…?」
「いやー課題忘れてさ。」
そう言って俺は自分の机から取りにきた課題を取って、俺はみょーじに見せた。
「あ、そうなんだ。」
「みょーじはここで何してんだ?」
「私は…先生の手伝いをしてて、終わって少し座ってたら……」
「寝ちゃったと。」
「う…まぁ、そんなとこです……。」
そう言って俯くみょーじの顔は赤くて、可愛いなぁ…なーんて。
「…んっと、俺そろそろ行くわ。みょーじも、もう少しで学校閉まるぞ。」「え…もうこんな時間!?」
わたわたと帰り支度を始めるみょーじが面白くてつい笑いそうになるがこらえる。
「そんじゃみょーじ、気を付けて帰れよ。また明日!」
そう言って教室を出ようとした時……
「ま、待って高尾君!」
みょーじに呼び止められた。
立ち止まった俺にみょーじは近づくと、そっと何かを差し出してきた。みょーじの手には小さな包み。
「その…高尾君、今日誕生日なんでしょ?よかったらどうぞ。」
そう言ってみょーじはふわりと微笑んだ。
包みを受け取る。
中を開けてみると、美味しそうなお菓子が入っていた。
「ホントに貰っていいの?」
「う、うん。昨日作りすぎちゃってついでだし、お口に合うかは分からないけど……。」
段々と声が小さくなって俯くみょーじ。
大丈夫か…と思えば勢いよく顔を上げた。
「今日はありがとう!そ、それじゃ!」
早口にそう告げると走りだした。
俺は何故か無意識にそんなみょーじを追いかけていて、気付いたら腕を掴んでいた。
「た、高尾君…?」
いきなりの事に戸惑うような目と目が合う。
俺は俺でどうしたらいいか分からなくて、必死に頭を働かせる。
「…るよ。」
「え……?」
「もう暗いから家まで送ってく!」
数分たって言えたのはそれだけだった。
それなのに何故か俺は酷く緊張していて…。
こんなの俺らしくねぇ。
悪いよ…とか、申し訳ない…とか言うみょーじの言葉を聞こえないフリして、俺はみょーじの手を引っ張った。
next.
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