釘さし


二人で暫く話した後、修行をすると言うので私も大人しく部屋のソファに座る。

それから直ぐに訪ねてきた二人を迎え入れ、私は三人を見守った。


「体内にエネルギーをためるイメージ。細胞の一つ一つから少しずつパワーを集めどんどんどんどん増えていく…、たくわえたその力を一気に───外へ!!!」


物凄いオーラが二人の体を包む。

うんうん、中々いいオーラだし上達も早い。

ズシ君よりまだ少し劣りはするものの、あと数時間もすれば恐らく…。

それを感じたのか、ズシ君がまだ練習を続けようと言う二人を、体を休めるのも修行だからと説得した。

うん、まあ半日やそこらで抜かれたくないよね。

さてと、私は帰っていく二人を見送り、立ち上がる。


『キルア』


声を掛ければキルアは頷く。

恐らく能面男達はゴン達を諦めてはいない。

その考えはキルアも同じようで、自然と二人で気配を消しながらズシ君の後をつける。

きっとズシ君を囮にゴンと試合を組もうとする、そう思ったからだ。

暫く後を追えば、やはりどこからかつけていた能面男が念を使いズシ君を捕らえた。

私とキルアは目で合図をし、私は車椅子男の後ろに回りナイフを突き付ける。

手入れの行き届いたベンズナイフが薄く皮膚を裂き、血が滲む。

ごくり、と二人の唾を飲む音が聞こえた。


「やめとけよ。こんなカビ臭くてせこいマネしなくてもさ、俺が相手してやるよ。いつがいいんだっけ?」


黙り込む二人に、私は更に車椅子男にナイフを押し当てる。


「サ、サダソっ…」


焦ったように声を出す車椅子男に、私はニヤリと口の端を吊り上げる。


「心配しなくても勝ちは譲るからさ。なんならあんたら全員に一勝ずつプレゼント!!そんでいいだろ?ゴンは一度師匠との約束を反故にしてるからさー、どんな事情であれもう一回約束破ったら念を教わるのやめちゃうと思うんだよね。たとえ師匠が許してもさ。それじゃ困るんだよ」

『ゴンと戦いたいならさ、ゴンの都合に合わせなよ。きっとゴンなら喜んで受けてくれる…。それでも足りないって言うなら私からも勝ちをあげるよ?』


そうキルアに続き言葉を紡げば、能面男がオーケイを出す。

念のため一緒に登録しに行こうと言い出す二人にこちらも了承し、ズシ君を返してもらった。

車椅子男が登録してから返すと言い出したが、私がナイフに力を込めればすぐに返してくれたのだ。

私がズシ君を抱えようとすれば、キルアに止められてしまったので、現在はキルアの背中の上にいる。





「5月…29日と。さ、これでいいんだろ?」


ズシ君をおんぶしながら器用に登録を済ませたキルア。

登録用紙を見せるとくるりと踵を返す。


「あ、も一度言っとくけどこれっきりだぜ。もし約束を破ったら………えーと、ま、いーや。やめとこ」


釘をさすキルアに性格悪いなあと苦笑い。

敢えて言わないのは、恐怖心を煽るからだろう。

でもさ、この人達根っからの馬鹿みたいだから通じるかなあ、なんて。

ちらりと見れば、やはりまだ何か企んでいるような顔。

これはゴンにも少なからず仕掛けそうだな。


「じゃ、帰ろうぜ名前」

『うん。あ、そういえば…、もう一人のお仲間さんはどこにいるのかなあ、なんて。例えば…向こうの曲がり角、とかね』


そう言えば、二人は息を飲む。

ああ、やっぱり仕掛る気満々だな。

んー、まあ何言ってもゴンに申し込むんだろうしなあ。


『なーんてね、冗談だよ。ちゃんと約束、守ってね。キルアより先にゴンと試合したら……、私、あなたたち殺しちゃうかもね?』


微量の殺気を滲ませてそう言えば、二人はびくりと肩を揺らす。

まあ、あとはウイングさんと、もしかしたらゴンの説得か。

そこは問題ないだろうからいいけど。

取り敢えずこれだけ釘をさしておけば、流石に卑怯な事もしないと思うし。


「何してんだよ名前。置いてくぞー」

『今行く』


にこりと二人に笑いかけ、奥の曲がり角に炎を灯す。

そうすれば微かに奥から悲鳴が聞こえてきてニヤリ。

そしてくるりと踵を返すと、先に行ってしまっているキルアを追い掛けた。


「何してたんだよ」

『んー、釘さしといた。けどさ、私の勘なんだけど、ゴンとも試合組みそうだよね、あいつら馬鹿みたいだし』


そう言えば、キルアは少し苛立ちを含んだ顔で笑う。


「そうなったら潰すまでさ」

『うん、まあそうだね。…早くズシ君部屋に返そ』


殺気を滲ませて暗殺者の顔をするキルアにぞくりとする。

怖いとかじゃなくて、本気で戦ってみたいというような好戦的なもの。

それを見ぬフリをし、私はキルアに先を急ぐよう促した。

キルアが足早に行くのに付いて行けば、すぐに到着。


「おや、名前さんにキルア君」


中の気配にウイングさんが居ることを確認すると、ドアをノックする。

すれば、すぐに出てきたいつも通りのウイングさんにシャツが出ている事を告げる。

照れた顔でお礼を云うウイングさんに、本題であるズシ君を渡せば、何か危ない事があったのではとういう表情のウイングさんに思わず首を横に振った。


「それがさ、ズシのやつ疲れたのか正面口の端で寝てたからさー」


キルアは飄々と嘘をついて、ズシ君を連れて来た経緯を説明している。

キルアもウイングさんを心配させたくはないのだろう。

ウイングさんは真っ直ぐだから、何となくその気持ちは分かる。

どうやらウイングさんはそれで納得したようで、私たちにお礼を言ってくれた。

それにまたムズ痒くなりながら、私たちは部屋を後にする。


「さ、部屋戻って飯食おーぜ。俺もう腹ペコペコ」


部屋を出てすぐそう言ってお腹を摩るキルアに思わず笑みが漏れる。

さっきまで気を張っていたのが嘘みたいだ。


『じゃあ何か作っておくから先にお風呂入りなよ。修行で汗かいたでしょ』

「んー、じゃあそうしよっかな。…あ、なんなら名前も一緒に入る?飯はテキトーに出前とか頼めばいいしさ」


ニヤニヤと笑って顔を近付けてくるキルアに途端に恥ずかしくなり、一発殴る。


『先帰ってるからね!』


全く、ちょっと感謝したのが馬鹿みたいじゃない。

プリプリと怒れば、キルアが間延びした声で謝ってくる。

絶対反省していないのが分かるのに、何故だか憎めないからキルアはズルイ。




釘さし
《…手、繋いでくれたら許す》

〈……!(何だそれ、可愛すぎるだろ!!)〉

《キルア?》

〈いや、それくらいいつでも繋いでやるよ〉


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