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鮮血が私の目の前で舞う。
普段の仕事で慣れているはずなのに、その血が肉親のものだというだけなはずなのに、酷く吐き気がする。
『お母…さ、』
私を抱きしめ、無表情な男から私を庇ったのは血の繋がった母親だった。
全身にかかった母の血の臭いにむせ返りそうだ。
「いいか、名前。私に逆らえば例えお前だろうと容赦なく殺す。覚えておけ」
『は、い。お父様……』
母を殺した男は紛れも無く自分の父親で、父に逆らえぬ私は母の死を父に逆らったからだと素直に受け止めた。
母が殺された理由は、幼い自分に殺しをさせないでほしいと父に訴えたから。
父はそれが気に入らず、政略結婚で嫁いできた母をなぶり殺した。
母は機嫌の悪い父は見境いなく人を殺すことを知っていたから、最期まで私を庇った。
優しくて自分を普通の女の子として育ててくれた大好きな母。
心の奥底では、父を殺したい気持ちと父に決して反抗してはいけないと警鐘を鳴らす、矛盾した気持ちが渦巻いていた。
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