09


次の日、俺は朝イチで一也のところへ行き手を合わせ頭を下げた。

「昨日はまじでごめん。今度飯奢るわ、つか、埋め合わせさせて」

3年生が2年生に頭を下げているのが一也のクラスの前だからか、視線が痛い。
今更ながら気付いたところでやっちゃったもんは仕方ないとそのままでいれば、一也に頭を上げるように促される。

「大丈夫ですよ。それより、昨日は大丈夫でしたか?」

「あー、まあ、大丈夫だよ。なあ、一也、今日からテスト1週間前で部活朝練だけだろ?もしよかったらなんだけど今日埋め合わせさせてもらえねー?」

「じゃあテスト勉強でもしますか?」

「お、いいね。分からないとこあれば教えるわ」

「助かります」

埋め合わせになり得るのかは分からないが、一也がそれでいいらしいのでまあいいだろ。
場所どうする?と尋ねれば、一也は少し考えた後、寮の部屋だと周りがうるさいかも…と言った。
一也って誰と同じ部屋なんだろ。
何にせよ、うるさくなるかもってのは同意だし別のところがいいよな。
図書室……、は人多そうだし、自習室も今から予約取ると多そうだ。
頭の中で次々と浮かんでくる案を消していけば、ふと思い出す。
俺の家、昨日美幸追い出したし、流石にいねーよな?
兄貴と喧嘩したのか何なのか分かんねぇけど、ことある事に俺のところに来るのやめてほしいんだけど。
俺がどんだけ美幸の事好きか知っててやってんだからタチ悪いよな。
今は美幸より…、一也のが好きになってる、けど。
あーっ、認めたら恥ずかしいな、ほんとさ。

「名前さん?」

黙り込んだままの俺を不審に思ったのか、一也が俺の名前を呼ぶ。
脳内で話脱線しまくってた、と慌てて口を開いた。

「俺ん家は?学校の最寄り駅から2駅いって徒歩5分圏内」

「家行っても大丈夫なんですか?」

「俺のとこ両親海外だし、兄貴も同棲してていないから実質一人暮らしだし全然いいよ」

そう言えば、一也は控えめにじゃあお邪魔します、と言った。
じゃあ放課後一也の教室迎えに来るな、と言えば、一也は緩く首を横に振り、俺が迎えに行くんで待ってて下さいと言う。
言い出したら割りと聞かないって事はここ数日で充分過ぎるほど分かってた俺は、素直に頷いて踵を返す。
勉強かー、久々に葵ちゃんたち以外とするな。
一応DVD借りとくか。
一也も要領良さそうだし、俺は勉強得意でそこそこ出来るから苦手分野やればいいし。
何借りるかなー、葵ちゃんにおすすめ聞こ。
あ、てか今日昼までだから昼ごはんも考えないとだな。


えーと、とりあえずこんだけか。
荷物を詰めていれば、葵ちゃんに肩を叩かれて振り向く。
何、めっちゃ痛いんだけど。

「御幸君来てるよ」

「あ、ほんとだ。じゃあ俺今日先帰るから」

「はいはい。また報告待ってるよ」

いや、待たなくていいんだけど。
俺は葵ちゃんに苦笑いを零し、鞄を肩に掛けると扉に近付く。

「お待たせー」

扉に凭れるようにしていた一也の隣に並び、肩を叩く。

「行きましょうか」

「おー」

駅までの道のりを歩き、2駅分進み、帰りついた我が家。
ここ、俺ん家だよ、そう言えば一也は口をあんぐり開けたまま固まった。

「…名前さん、金持ち……?」

「え?そう?まあ、俺推薦とか貰ってるわけじゃないしな」

画材も割りと高いし、まあ、それなり?と返事すれば未だ驚き顔の一也。
それに少し笑えば、ムッとした顔をしたので入ろうかと促す。

「ただいまー…」

「おかえり!名前!!」

不意に喰らった衝撃に思わずよろめくものの、何とかその主を抱き留める。
首に無遠慮に回される腕に、当たる柔らかな感触、高くて甘い声に少しの香水の匂いに誰か検討はついている。

「美幸…。お前何でここにいるんだよ」

肩を押し返し、一定の距離を置けば見えた顔が予想通りでため息が出た。

「何よー。私が居てくれて嬉しいでしょ?名前は私の事が好きなんだからさ」

「あのな、そういう問題じゃないって。ていうか、そこ退いて、入れないし一也が戸惑ってる」

そう言えば、美幸は漸く俺の隣に一也がいる事に気付いたのか、目線をそちらに動かす。
そしてまじまじ見だしたかと思えば、途端に嬉しそうに笑った。

「えー、かっこいい!いや、綺麗?名前はー?何ていうのー?」

「御幸、一也です」

「へー。御幸くんっていうんだあ。あ、名前が言ってたあたしよりきれ…っ」

放っておけばぺらぺらといらない事まで話そうになる美幸の口を手で塞ぐ。
そうすれば、何かを察したのか楽しそうに目を細めて美幸が俺の事を見上げる。
頼むからいらない事は言うなよ、と目線で釘を刺し、美幸を開放すれば素早く一也の手を引いて2階へ上がった。

「ごめんな、一也。悪気はないとおもうんだけどさ」

「いえ。大丈夫です」

「あ、ご飯適当に何か出来ないか冷蔵庫見てくるから待ってて」

何やら俯きがちな一也を置いて1階へと戻る。
リビングからキッチンに差し掛かったところで、丁度美幸とすれ違った。

「あ、名前。あたしが飲み物用意したから持って上がるね。ご飯作るんでしょ?」

「いらねーことすんなよ?」

「しないよー。ちょっとお喋りするだけだって」

楽しそうにそう言う美幸に少し不安になるが、美幸も空気は読むだろうたぶん。
…また、後でちゃんと謝ろう。
そう思いながら、美幸を見送り冷蔵庫を開けた。

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