交渉って対等な条件のときに交わされますよね?


†Case6:交渉って対等な条件のときに交わされますよね?†




クラスの視線がずっと痛かった。


穴があったなら確実にそこに入っている位に。


そんな視線に耐え、今は放課後。


「名前、どうすんだよぃ?」


誰もいなくなった教室でブン太とひそひそと話す。


『どうするも何も…。私、何かしたっけ?』


いや、何もしてない。


まずテニス部には学校では関わっていない。(仁王は省く)


今日、ブン太がいきなり引っ張っていくからまさか丸井君とも仲良いの!?って疑惑が出たけど。


仕方ないから幼なじみだ、と言えば何とかその場は収まった…じゃなくて。


本気で思い当たる節がない。


…あ、もしかして、テニス部なんかより幽霊のがいいと言う話しを誰かから聞いて怒ってるとか?


それしかないって!


『わ、私帰る…。ブン太、理由聞かれたらどうしても外せない用事があったから帰ったって言っといて!!』


「いやいや、幸村君相手にその言い訳は通用しねぇって!!」


『…お、おばあちゃん!おばあちゃんのお葬式だからって!!』


「お前のばあちゃん、すっげーぴんぴんしてんじゃん!勝手に殺すなよ!!つーか、絶対ばれるって!!」


「ふーん。名字さん、やっぱり逃げるつもりだったんだ?」


不意に聞こえたその声にぴしりと固まった。


††††††††††


「迎えに来てよかったよ」


ゆっくりと壊れたロボットのように振り返ると、黒い笑みを浮かべて立つ幸村君がドアにもたれてこちらを見ている。


これは始めから話しを聞かれていたと思う。


背筋に冷や汗が流れて、顔は青く引き攣る。


視界の端に捉えたブン太も同じような顔をしていた。


『な、何のことかな?幸村君の勘違いじゃない?』


「ふふっ。とぼけても無駄だよ。始めから聞いていたからね」


…やっぱり?


言い訳が思いつかず、立ちつくしていると、幸村君が私の腕を掴んだ。


「ゆ、幸村君!」


「何だい、丸井?」


「い、いや…。悪い、名前!!」


不意にブン太が幸村君に声をかけた。


私は希望の眼差しでブン太を見る。


…が、幸村君に黒い笑みを向けられ、ブン太は黙った。


ブン太、弱い!!


期待した私が馬鹿だった。


幸村君に逆らえる人なんているわけないじゃないかと嘆く。


一目見たときからそんなこと本能的に感じとっていたじゃないか!


††††††††††


ずるずると引きずられるように教室を出る。


ブン太からの視線が痛い。


そ、そんなこの世終わり見たいな目で見るなっ!!


ううー…、と唸りながら泣く。


カッコ悪いとか言うな。


自分が一番知ってるよ、そんなこと。


連れて来られたのは男子テニス部の部室。


「精市、遅かったな。…そこの引きずられているのは?」


「例の女子だよ」


涙でぼやける視界のまま、幸村君と話す男子達を見上げる。


「…精市、泣いているぞ。離してやってはどうだ」


「幸村、その女子、首が閉まっているぞ」


そう男の子達が言うと、幸村君がやっとのことで離してくれた。


始めは腕を引っ張られていたのだが、私が座り込んで抵抗したため、首根っこを掴まれて引きずられてきたのだ。


地味に首が閉まって苦しいし、周りの人からの視線が痛い。


そんな私を助けてくれた目の前の男の子達は神様だよ!!


††††††††††


部室に通された私は、緊張しながら椅子に座る。


周りには何故かテニス部のレギュラー達が勢揃いで、見知った顔も何人かいた。


「じゃあ本題に入るけど、一応確認。赤也から聞いたんだけど、幽霊とかが祓えるって本当?」


幸村君の言葉に赤也君のほうを見る。


そこには、すまなそうな顔をした赤也君がいた。


きっと彼も幸村君の脅しに負けたんだろう。


『…本当ですけど、それが何か?』


そう尋ねれば、幸村君はにこりと笑い口を開いた。


「君、テニス部のマネージャーになってくれるかな?」


私はその言葉にフリーズした。


何だって…?


テニス部のマネージャーになれだと?


『嫌です!!だって、テニス部のマネージャーなんかになったら目立つじゃないですか!?』


しかもテニス部だよ!?


女子から目、付けられるよ!!


そ、想像しただけで恐ろしい…。


「人の話しは最後まで聞いてくれる?別に有能なマネージャーなら他に頼むさ。第一、身の回りの世話をするだけのマネージャーなら必要ない」


『じゃ、じゃあ何で?』


「…柳」


説明を振った幸村君。


説明を任されたのは、私を助けてくれた男子の一人だった。




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