そして疑惑


†Case23.そして疑惑




出口はすぐに見つけた。


私は、リュークを先に行かせて確認を済ませると、三人に出口を見付けたことを伝える。


「へえ…。案外簡単に見つかったな」


ブン太が良かったと言わんばかりの表情でそう言い頷く。


私も案外すんなり見つかった出口に、安堵の溜息を漏らした。


「よし、じゃあここから出るかのう」


「そうだな」


仁王君とブン太は、さきさきと出口に向かう。


私も二人の後を追うようにして、歩みを進めると、控えめに肩に手を置かれた。


誰かと言われれば、それはたった一人しかいない。


『どうしたの、柳生君』


私は、私の肩に手を置く柳生君の方に振り向く。


彼は顔を俯かせ、気まずそうに目線を泳がせた。


しかし、それは数秒ほどのことで、すぐに彼は私を真っすぐ見据える。


「名字さん…。先程は失礼な物言い、失礼しました!」


柳生君はそう言って私に頭を下げた。


『い、いいよ、全然!どうしたのよ、いきなり……』


丁寧にお辞儀する柳生君に、私の方がテンパってしまう。


慌てて顔を上げるように言うが、柳生君は決して顔を上げようとはしない。


††††††††††


ふるふると、何かに耐えるように拳を握りしめる柳生君。


先程から柳生君は、頭を下げたまま動かない。


「…先程は、信用していないなどと言ってしまい、本当に申し訳ありません……」


やっと口を開いたと思えば、柳生君の口から出て来たのは、弱々しい謝罪だった。


『いいよ、気にしてない。…っていうのは嘘だけど、私は柳生君のことも好きだもん』


そう言うと、柳生君は眼鏡の奥の瞳を潤ませ、もう一度だけ謝罪の言葉を述べた。


何て言うか、彼はやはりいい人だと思う。


こういう、何事にも真っすぐな所が私が彼を嫌いになれない理由の一つだと思うんだよね。


なんだろうね、子供みたいに純粋って言うのかな。


彼はただ、私が信用出来なかっただけだ。


仁王君の方が大切だっただけだ。


ただ、それだけ。


私は、どうしようもなく情けない顔で涙を堪える柳生君の頬に手を添えて、顔を上げさせた。


『柳生君、柳生君は悪くないから。だからそんな顔しないで』


罪悪感を感じないで欲しくて、柳生君にそう言う。


すると、柳生君はぐちゃぐちゃの顔で精一杯笑った。


「仁王君を助けてくれて…ありがとうございます。名前さん」


初めて呼ばれた名前に、私も自然と笑みを零していた。


††††††††††


にこにこと笑い合い、ほのぼのとした雰囲気を醸し出す私と柳生君。


彼の心からの笑顔を見るのは初めてかもしれない。


「なーに、二人でいちゃいちゃしとるんじゃ」


それが嬉しくて更に笑みを深めていた私の頭に手を乗せてきたのは、言わずもがな仁王君だ。


仁王君は私達以上に笑顔…というかニヤニヤしている。


でも、それはいつもみたく人をからかう時みたいなニヤニヤじゃなくて、どこか嬉しそうなニヤけ方。


「仁王君!君はいつから…」


「ん?ついさっきじゃよ。…まあ、だいたい事の察しはついとるがのう」


仁王君は私の頭を撫でると、良かったなと一言耳元で囁いた。


本当に仁王君はよく人を見ている。


仁王君には全てお見通しだったようだ。


「おーい、三人とも早く出るぞー」


ブン太が遠くから私達を呼ぶ声が響き、私達は笑みを零すと、ブン太の後を追った。


「…良かったの、やーぎゅ」


「仁王君は知っていたのですね。私が彼女を信じ切れていないことを」


「じゃが、嫌ってもなかった」


「…はい、その通りです。貴方が彼女に懐く理由も、今回の一件でよく分かりました。彼女はとても純粋な方ですね」


柳生と仁王は、こっそりと名前を見て優しく微笑んだ。


††††††††††


迷路から無事帰還した私達四人は、もう一度大王様に会いに向かった。


理由はただの報告だ。


だって帰り道は覚えてるからね。


『大王様』


「おお、名前達か。…どうやら無事に連れ戻せたようだな」


『はい、おかげさまで』


そう言って報告すると、大王様は優しく笑い、人間界に帰る道を開けてくれた。


霊界人に会ったら面倒だからなどと言っているが、大王様の優しさだって事は、ここにいる皆が分かっているだろう。


「気をつけて帰るんだぞ」


私達が人間界へと帰る時、大王様はそれだけ言うと私達を人間界へと帰してくれた。


「……さようなら、名前」


「大王様…」


「ああ。僕はこれから人間界に向かう。後は頼んだぞ」


「承知しました」


そして…、新たな疑惑が浮上した。


霊界人である大王を動かす程の、それは大きな………。




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