少女の行動と疑惑


†Case13:少女の行動と疑惑




日もどっぷりと暮れた学校に、一人の女の凜と通る声が響く。


「―…陰、裂、解!!」


何やらぶつぶつと呟き、数珠を鳴らす。


「クック…。小娘よ、何のために転入したのかと思えば…、理由はやはりあの娘か?」


「ケケッ。それ以外にこの娘の理由はないだろう。何だ、復讐でもするか?」


二匹の狐が少女の周りを笑いながら飛び回る。



そんな狐を少女は鋭い目付きで睨むと、数珠で二匹の狐を殴った。


「ギャンッ!!何をする、小娘!!」


「貴様…我等は高貴な妖ぞ!!」


ギャンギャンと吠える二匹を冷たく睨むと、少女はくるりと踵を返す。


「煩い…。アンタ達は私が呼び出したの。いくらアンタ達が高貴でも、主は私。関係ないわ」


「何を言う!貴様なぞ、我等が一瞬で―…「黙れ。…黙らなきゃ、殺すわよ?」


不意に振り向き、殺気の篭った声を二匹に向けると、二匹は悔しそうにしながら口を閉じる。


そんな様子を見ると、少女はふんっと鼻で笑いスタスタと学校を後にした。


「復讐なんてするわけないじゃない。私の可愛い可愛い名前のために愉しい余興を用意してあげたの」


ふふふっ…と妖しく愉しげに笑う少女の表情は狂気で満ちていた。


††††††††††


欠伸を噛み殺しながら登校してきた私。


今日は珍しくブン太も一緒だ。


たまたま時間が重なったため、二人でまだ誰も通っていない通学路を歩く。


『それにしても、珍しいこともあるのね。ブン太ってば朝練のある日以外はたいてい遅刻ギリギリなのにさ』


そう言いながらブン太を見ると、ブン太も眠そうに欠伸を噛み殺している。


「なんだよ。悪いかよぃ」


『別にー。誰もそんなこと言ってないじゃん』


むすっと拗ねた表情で私を見るブン太にそう返事すると、ブン太はじとっとした目で私を見てきた。


だがそれもいつものため、私は知らんぷりして前を見る。


いつもどちらかが憎まれ口を叩いてしまうのだ。


「……なあ、名前」


不意にブン太が真剣な声と顔つきで私を見る。


言いたいことが分かった私も頷く。


『ヤバイね。多分この悪霊達の発生元は学校だ』


ブン太と二人で顔を見合わせて学校まで急いだ。


しかし、余りに急ぎ過ぎて足を縺れさせ躓く。


「…ったく、何やってんだよ。ほら、急ぐぞ」


腰辺りをブン太に支えられ、転けるのを助けてもらった。


そして、ブン太は私の手をさりげなく引いて学校まで走った。


††††††††††


『…うわ。思った以上に酷い。ね、ブン太。………おーい、生きてる?』


「助け、て…くれぃ……」


学校に着くと、悪霊が大量にいる。


ブン太のほうを向けば案の定、悪霊にのしかかられて地面に這いつくばるブン太と目が合った。


一応声をかけると、少し苦しそうだけど命に別状はなさそうだ。


『全く、憑かれすぎ』


ブン太の背中の悪霊を祓い、ブン太を抱きしめる。


すると、ブン太に張り付いていた悪霊が全て取り祓われた。


「サ、サンキュー」


けほけほと咳込むブン太の手を取り、私の足は校舎内へと進む。


ブン太も私に引っ張られる形で着いて来ているが、幸いにも私がブン太に触れているからか、ブン太に悪霊が寄ってくることはなかった。


それどころか、私達の半径一メートル以内に入ってくる悪霊はいない。


…それにしても、この大量の悪霊は明らかに誰かが呼び寄せたとしか考えられない。


調べる必要がありそうだ。


しかし、今は祓うことが先だろう。


『皆が登校してくるまであと30分あるかないか…。幸い、今日は朝練がどの部活もないから目撃されることはないでしょ』


30分でどこまで除霊できるかは分からないけど…。


ブン太にも手伝ってもらえば何とかなるかもしれない。


††††††††††


―パチンッ


聖水やら、扇子を使い何とか全ての悪霊を祓った。


ブン太が幽霊ホイホイだったから、かなり手間が省けたのも一つの理由だろう。


わざわざこっちから捜しに行かなくても、ブン太が少し歩けば幽霊がブン太に取り憑くからね。


私は主にブン太に憑いた霊を祓えば良かった。


『お疲れ様、ブン太。念のためにブン太をもう一度清めるね』


そう言って私はブン太の足元に常備しているチョークで魔法陣を描く。


描き終えると、私の血を一滴聖水で薄めた物を魔法陣にぽたりと零し、詠唱する。


パアッと一瞬光り、完了。


「…何か、身体がいつもより軽い気がするぜ」


手を開いたり結んだりしているブン太に思わず笑みが漏れた。


いつまで経っても私の除霊に興味津々なところが何だか可愛い。


『身体の疲れとか、そういう悪いもの全部取り除いてるからね』


「へぇ……。名前はいいよな、そんな技があって。俺も出来たらいいのによ」


そう言って拗ねるブン太。


確かに、ブン太は幽霊が嫌いではないが苦手なほうだ。


なら、自分で除霊出来るといいなと思うんだろうけど、こればっかりは血統も大事なのだ。


幽霊を見ることが出来る家系があるように、除霊出来る家系と出来ない家系がある。


いわば、生まれ持った素質によるものだから仕方がない。


††††††††††


『ほら、拗ねてないで早く教室行くよ?』


「あ、おい!待てよ!!」


ぱたぱたと校舎の方へ向かう二人の後ろ姿を少女はマンションの屋上から見下ろす。


じゃら…、っと数珠を鳴らしながら昨夜とは少し違うお経を唱え始める。


「つくづく趣味の悪い…。その悪魔をどうするつもりだ」


「昨夜の悪霊はそやつが育つまで、そやつの気配を消すためか。成長すれば気配なぞいくらでも消せるからな」


二匹の狐がまた少女の周りで飛びながら、名前に視線をやる。


その表情は妖ゆえ、あまり分からないが…。


「それもあるけど、悪霊の魂を餌にするためでもある。名前が祓った悪霊達の魂は全部吸収されてるのよ、この水晶玉にね」


そう言って水晶玉を取り出した少女は何やら呟くと、悪魔を呼び出した。


そして、もう一度何かを呟くと水晶玉からもやもやとした塊が出てくる。


塊を掴んだ少女はそれを悪魔に餌として与えた。


「一歩間違えればその悪魔のせいで人が死ぬことになるぞ」


「構わないわ。名前さえいれば世界なんてどうでもいい」


「…相変わらず狂った性格をしている」


さも当たり前のように答えた少女に、狐達は狂っているとぽつりと漏らした。




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