魔王様の微笑みは毒に等しい


†Case9:魔王様の微笑みは毒に等しい




家に帰って、色々と男子テニス部室のことを調べていたら、原因である幽霊はその日の内に分かった。


体調不良を起こした人達にも確認を取ったから間違いない。


『かなり強いよ、相手の幽霊』


次の日の放課後、テニス部の部室にブン太と向かいながら報告する。


『…で?何でそんなに元気ないのさ』


相槌をうちながら、心ここにあらずというような表情を浮かべるブン太。


何となく理由は察しているが、一応の確認だ。


「幸村君に昨日すげえ怒られてよー、部活行くのが怖えなって」


顔を青くするブン太。


余程怖かったのか、小さく震える身体を両腕で抱きしめている。


『ああ、うん。幸村君、怒ったら怖そうだもんね。ドンマイ☆』


「うぜえよぃ!つーか、慰める気全く無えし!!」


『当たり前でしょ。黙ってたブン太の自業自得だよ』


言い返せなくなったのか、ブン太は押し黙った。


しゅん、とうなだれるブン太が子犬みたいに見えて、私はブン太の頭をくしゃりと撫でた。


『はいはい。私も出来る限り側にいるからそんな顔しないの』


「…おう!」


にっ、といつも通りに笑ったブン太に、私も微笑み返した。


††††††††††


今日は部活があるようだ。


部室に出された椅子に腰かけながら、聖水を作る作業を始める。


『とりあえず、水道水に私の霊力込めて…。聖水は一応多めに作っとくか。ストックが9割ブン太のせいで無くなっていくからね』


私の霊力がこもったバケツ一杯の水を小瓶に移し、小分けにする。


私の作る聖水は何故かピンク色になってしまうため、見た目は危ない薬にしか見えないがれっきとした聖水だ。


誰かが聖水は何日もかけて祈り、浄化させたものだと言っていたが、私の思う聖水は霊力のこもった水。


だから数時間もあれば出来てしまう。


『んー…、今回の幽霊ならこれだけ聖水があれば大丈夫ね。暇だし、ブン太の様子でも見に行こ』


聖水の入った小瓶をポーチにしまい、数本はそのままスカートにしまった。


そして、座っていた椅子を隅に置き、コートに向かう。


何故なら、部室に来たときの様子じゃ、当分幸村君とはまともに話せない気がする。


私じゃなくもちろんブン太がだ。


幸村君は冷ややかな目を向けていたし、ブン太はそれに対して青い顔をしているだけだったからだ。


††††††††††


『幸村君ー。ここで見学してていいかな?』


ファンの子達がいるフェンスから離れた視角になっている場所から、幸村君にだけ聞こえる声で訪ねる。


彼はファンにバレたくない私の心情を読み取ったのか、こくりと頷くだけだった。


『ブン太』


幸村君に許可も貰ったことだし、とくるりと踵を返す。


打ち合いを終え、少し休憩を貰っているブン太を視角になるところから呼ぶ。


彼は、私の姿を見るとぱあっと顔を明るくさせて近づいてきた。


「名前!来てくれて良かったぜ。あのまま部室に篭ったらどうしようかと…」


『約束したからね。出来る限りアンタの側にいるって』


よしよしと宥めるように、私より背の高いブン太の頭を撫でると、ブン太は気持ち良さそうに目を細めた。


幸村君のことだから昨日は怒ってたとしても、今日まで引きずるような人じゃないだろうし、今日はブン太をイジメているんだろう。


ブン太に反省させるためなら大成功だよ。


不意に視線を感じて視線の先を見ると、幸村君が私達を見ていた。


私と目が合うなり幸村君はにこっ、と微笑んで自らブン太を呼びにくる。


…意地悪だなあ。


反省させるにしても、ちょっと酷いかも。


††††††††††


丸井、と呼びかける幸村君。


びくりと大袈裟に肩を揺らすブン太に笑いを堪えている。


「休憩は終わりだよ」


コクコクと必死に頷くブン太が可哀相で、私は助けてやることにした。


『幸村君、ブン太をあんまりからかわないの』


「あれ、名字さんにはバレてたんだ?ふふっ、丸井、別にもう怒ってないよ。一度目だから今回は特別。でも二度目はないからね?」


…嘘ばっかり。


私にバレてることなんて分かってたくせに。


それにからかい過ぎるなって言った端からからかってるし。


まあ、ブン太がそれに気づいたかは置いといて、さっきより明るくなったしいいや。


ふっ、と笑いブン太を見送る。


「…名字さんもそんな表情するんだね」


『失礼だなあ。人形じゃないんだよ、私は』


幸村君が意外そうに私の顔を見る。


まあ、確かに私は貼付けた笑みばかりだった。


その方が何かと便利だし、幸村君達もしているというのに、何が意外なのだろう。


「俺、名字さんの今の表情は好きだな」


『…あ、ありがとう』


幸村君が初めて私貼付けた笑みじゃなく、微笑んだ。


美形が笑うと綺麗だ。


私はお世辞だと頭では理解しながらも、赤くなっている顔を逸らしお礼を言った。




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