『あ……、れ』
辺り一面を支配するのは黒。
いや、闇、だ。
そして"無"でもある。
今までに体験したことのない不思議な空気が、ここにはあるのだ。
手を伸ばしても何も掴むことなく空を切る。
そこに、求めたものはない。
自分は今どうしてこのような状況に陥っているのか、全く思い出せない。
先程まで何をしていたかも靄が掛かったかのようにはっきりとしない。
いくら周りを見渡しても、ファミリーの皆や光の一片すら見つけることは叶わない。
ぞくり、と体を突き抜けていく得体の知れない感覚に身震いすらしてしまいそうで。
『…っ』
嫌、だ。
いやだ。
気がつけば私の足は駆けだしていた。
向かう先なんて分からない。
ただただこの闇から、無から逃げ出したくて必死だった。
『や、だ…っ』
走っても走っても抜け出せない世界。
闇に追い掛けられているかのようである。
感じたのは恐怖。
向けられた銃口にすら感じなかった恐怖を今、感じている。
走っても走っても抜け出すことのできない、前に進んでいることすら分からないその空間に気が狂ってしまいそうにもなったその瞬間。
「なまえ」
優しく、私の名前を呼ぶ声と。
暖かな温もりに何かが溢れた。
「気をしっかりと持ちなさい、なまえ」
『っ、あ……』
瞬間、視界に飛び込んできたのはオッドアイの瞳と私の気持ちを落ち着かせる香り。
軽く肩を揺らされれば漸く思い出した現状。
「おやおや、残念だ。もう幻術を解いてしまったのですか」
『っ』
「ええ、彼女に幻術をかけたのはあなたですね?」
それはニヤリと、背筋が凍るくらいに歪められた口角。
全ての発端は、この人物だ。
骸がそんな男に言葉を掛けたが掛けられた本人はあっさりと肯定してみせ、余裕の表情を浮かべた。
「そう睨まないで下さいよ」
『……あなた、もう一人しか残っていないのに、余裕なのね』
ボンゴレの傘下に位置しながらも巧みな工作により長年に渡ってマフィアの掟を破り続けてきたファミリー。そのボスが今目の前にいる人物である。
そのファミリーの壊滅、それが今回の任務であって骸と依緒璃に課せられたものだった。
二人によってこのファミリーはほぼ壊滅状態にある。
残すはこのファミリーのボスであり、今目の前に立っている男のみなのだ。
しかし、そいつと対峙した瞬間、私の意識は霞んだ。
「なまえ、下がっていてください」
「流石、霧の守護者…よく分かっている」
「…えぇ、先程なまえにかけられたのは幻術。すぐだったとはいえ僕が対象しきれませんでしたからね。あなたの幻術の腕は少々厄介だ」
つまり、私はあの一瞬で幻術にかかっていたようで。
体に残る恐怖は完全に消え去らない。
「なまえさんと言いましたね、…先程の恐怖、もう一度味わってみますか?」
『…、や…!』
そんな中、不意にかち合った視線。
まるで言うことを聞かない体では重なったそれから目を逸らすことが出来ない。
先程の恐怖が再び体に戻ってきそうな感覚の中、
「クフフ、そんなこと僕がさせる訳ないじゃないですか。なまえ、少し目を閉じていなさい」
包まれたのは紛れもない骸の腕だった。
やんわりと片手で目蓋を下ろされ、先程とは違った"黒"に支配されるが、恐怖はない。
その安心感からか、私の意識が遠退いたのはその後すぐだった。
次に目が覚めたのは暖かな温もりの中。
「目を覚ましましたか」
『…、骸…?』
「はい」
見上げれば骸の顔があって。
自分が骸の膝の上にいることを理解するまでに少々時間が掛かってしまった。
『?!、っ、骸下ろして…!』
「一時的とはいえ少々強い幻術にかかっていたんです。大人しくしていなさい」
『、…はい』
確かに、言われてみれば体が重く感じる。
これならば自力で歩くのは確かにきついかもしれないので大人しく口を噤んで心地よいその温もりに身を寄せた。
「…あの男、なまえの動揺や取り乱すのに乗じて逃げ出すつもりだったようです」
『…そ、か』
私の意識が途切れたあの後、男は先程までの余裕も消え去り骸が想像していたよりも簡単に片付いてしまったらしい。
その後、男がどうなったのかは骸の意味深な笑みを前にして聞くことは叶わなかった。
ふ、と。
こんなにも骸が近くにいるというのに一瞬、あの時の恐怖が込み上げた。
絶対的な"無"の恐怖は消えてはくれない。
思わず骸の服をぎゅ、と握れば頭を優しく肩へ寄せられた。
「…なまえを危険な目に遭わせてすみませんでした」
『骸が、謝ることなんてない。…私は骸に助けられた』
あの暗闇の中、覆い尽くす恐怖から助け出してくれたのは紛れもない骸。
私が一番求めたのは確かにそれだった。
それが骸でなければ私はそこから抜け出すことが出来なかったのかもしれない。
『私、骸が大切で…っ無を感じた時、一番に骸を探してた…!』
「……僕も、あなたが何よりも大切です」
耳を、疑った。
まさか、骸がそんな風に思っているなんて考えもしなかったから。
「これからは僕のすぐ傍にいてくれませんか?」
『…!』
「もう、あんな目に遭わせたりしない」
"無"に恐怖した。
あの時、闇雲に伸ばした手は何も掴めずに空を切ったけれど。
今度は確かに感じた温もり。
触れあった唇に、絡めた指。
あなたの傍にいるだけで、あんなにも私の中で消えることのなかった"無"の恐怖は消え去り、暖かくてふわりとしたものが溢れる。
求めたそのぬくもり
そのぬくもりの中、繋いだ指はそのままに微睡んでいた私は骸が囁いた言葉に気づくことはなかった。
「Ti amo」
それを知るのはまだ、後のお話である。
*あとがき*
依緒璃ちゃん…!
全部おまかせの結果がこれです。発想と文才は家出中です。
返品は全力で可!
なんなりとどうぞ^^*
企画への参加ありがとう!
これからもよろしくね(*^ω^*)
"Ti amo"は"愛してる"の意味で大丈夫だったかな←
* * *
莉葉ちゃんより30000打企画に頂きました◎
素敵な骸さんをありがとうw
そして載せるの遅くなってごめんね…
多分『Ti amo』あってると思うよ!
…自信ないけど(笑)
いつもメールで楽しませてくれる莉葉ちゃんが大好きです^^*
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