私は中庭が好きだ。
小さな池にはめだかとかアメンボとかがいて、見てるだけで癒されるし、吹く風が優しく木々を揺らすことも心を落ち着けてくれる。
私はいつも、昼休みと放課後、中庭を訪れていた。
昼休みはもちろん、お弁当を広げるためであり、放課後はのんびりするためだった。
いつもは図書室で借りた本を読んだり、音楽を聞いたりして過ごすけど、今日は気温もちょうどよく、いつもの木陰に座ると、睡魔が襲ってきた。
私はそのまま本能に抗わず、木に背中を預けた。


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―――――


ふと気がつくと、自分が真後ろの木ではなく、隣の何かにもたれていた。
未だはっきりしないぼんやりした目をぱちぱちさせながら隣を見ると、憧れの首無先輩と目があった。にっこりと微笑まれた。


「おはよう。もう日も暮れるし、こんなところで寝てたら風邪引いちゃうよ?」


見ると、膝には私のではないブレザー…多分先輩のであろうものが掛かっていた。


「す、すみません…!た、叩き起こして下さっても良かったんですけど…」


恥ずかしさから、語尾が小さくなっていく。
先輩は優雅に笑った。


「叩き起こすなんて…あまりに気持ち良さそうだったから、起こせなかったんだよ」

「それは…すみません」

「そんなに気にしないで。僕も可愛い寝顔が見れて良かったし」

「……!?」


た、たらしだ…!
首無先輩は自覚ないかもしれないが、そんな王子フェイスでそんなことを言われたら、私、爆発してしまうかもしれない…。


黙りこんでしまった私を見兼ねてか、首無先輩は私の頭をゆっくり撫でた。


「君の名前、聞いてもいい?」

「…みょうじ、なまえです」

「そっか、なまえちゃんか。僕は首無。よろしくね」


知ってます、とは言えなかった。
私はよろしくお願いします、とだけ小さく言った。
さっきからずっと憧れの人と一緒だと思うと、声が震えてくる。


「なまえちゃんはこれから何か用事ある?」

「…?いえ、後は帰るだけです」

「そっか、なら送るよ」

「い、いいです別に…!」


思わず、身振り手振りで遠慮する。
そんな、先輩の手(この場合は足かもしれない)を煩わすわけにはいかない。


「…でも、女の子の夜の一人歩きは危ないから。ね?」


優しく微笑む先輩に何も言えず、諦めて頷いた。
…女の子扱いしてくれたことを思うと、顔がにやけてくるから、必死でポーカーフェイスを意識して、ついでに下も向く。


そうしたら、電柱にぶつかりそうになったので、次は先輩に手を取られた。
繋がった手から心音が伝わるんじゃないか、と思う程、私の心臓はフル稼働していて、手汗が出ないか、など心配ごとが増えていく。


それでも、先輩の手は温かくて優しくて、涙が零れそうになってしまった。


(嬉しすぎて一生分の幸運を使い果たした気分)




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