海に沈む太陽が、海面を赤く光らせていた。空は橙から薄紫のグラデーションを作っていて、だれがどう見ても、陽が暮れようとしていた。

ああ、夜が来る。


「……クソッ。」


この国で自由に過ごしても、晴れやかな気分でいれたのは最初の方だけだった。

……俺、何しにこんなとこ来てんだよ。

背を預けた建物の硬さが痛い。俺は息を深く吐いて、上を見た。…鳥が飛んでいた。ルフでも何でもない、ただの鳥が。

片腕で光を遮って、目を閉じた。



だから、ペタペタと近付く小さな人影に、俺は気付かなかった。











「やあ。」


聞いたことのある声がした。


今一番聞きたくない、俺の大嫌いな声。
そのくせ一人でこんなとこまで来てしまう程に、会いたいと願ってやまなかった声。

腕を下げて目を開くと、視界の端に青が揺れた。


「…何しに来たんだよ、チビ。」


俺と目が合うと、そいつは小さく笑った。


「ふふ。それはこっちの台詞、かなぁ。」


チビはチビだから、段差に座ってる俺と立ってるそいつとの目線は真っ直ぐにかち合った。


「僕は、君に会いに来たんだ。」

「……あっそ。」


俺も。




俺じゃない、もう一人の俺がそう言った。




俺も……お前に会いに来た。



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