チビに案内された部屋は、フツーの客室だった。

なぁんだ、てっきり魔力を抑える結界でも張ってあるかと思ったのによ。構えて損した。


「おいチビ、いつまで手ェ握ってんだよ?いい加減放せ。」

「え!?、ああごめんよ?」


このチビの握力じゃあ、俺の手一つ拘束することは出来ない。別に離そうとすれば強制的に払うことも出来たのだ。けれど、"そういうこと"にしておく。

パッと離れていったチビの手に、俺は無理矢理理由を付けた。
名残惜しいだなんて思ってない、ないない。

そうだ、俺がここまでチビと手を繋ぐことを"我慢"していたのは、こいつがどうしても俺の手を放さなかったからだ。それ以外の理由なんて無い。





珍しく今日は沢山歩いたので、何時もより足が重い。
普段自由且つ楽に暮らしてるからか、そこそこ懐かしい感覚だった。


ベッドがあったので、俺は疲れた身体をそのまま投げた。香の薫かれた煌帝国の城にある自室のそれとは、全然違う香りがした。


「…眠いのかい?」


離れた位置から、チビの声が聞こえた。視線をちらりと向ければ、チビは俺と手を離した位置から動いていなかった。


「別に、眠かねーよ。」


ああ、でも…。


「チビー、腹減ったぁ。お前何か持って来いよ?」


俺がそう命令すれば、チビは「ふふ、分かったよ。」なんて言って部屋を出て行った。


「…何笑ってんだよ、気持ち悪ぃ。」


毒づいたところで、所詮それは独り言だった。


「ジュダル君。」


意外と早く戻って来たと思えば、チビは何も持っていなかった。どういうことだよと俺が文句を言う前に、チビがにこにこと口を開いた。


「晩ご飯、一緒に食べようよ。」

「はぁ!?」


なんつーか、今回のこいつには驚…呆れてばかりだ。


「僕も君と一緒に帰って来たようなものだから、まだ食べてないんだよ。」

「……。」


別に、一緒に飯を食うことが嫌な訳じゃない。
煌帝国じゃあ神官っつー立場から、誰かと食卓につくことは許されていなかった。静かすぎてつまんねー食事にいい加減嫌気が差して、一度紅炎の所に押し掛けたことがあったけど、あの後直ぐに連れ戻されちまったし。
だから俺としては、その誘いに乗ってやらないこともない。

ただ、こいつの提案には一つ問題がある。


「…なあ、お前と一緒っつーとあれだろ?アリババクンとかも一緒なわけだろ?
つーか、この俺にお前のオトモダチの輪に入れっつーわけ?」

「嫌かい?」

「ヤだよ。…なんか、気に食わねーんだよ、アイツ。」


アリババ君はとってもいい人だよ?
当然、そんな感じであいつを擁護する言葉が返って来ると思っていた。
しかしそんな俺の予想を裏切り、チビは一度瞬きをしてからにこりと笑った。


「じゃあ、二人で食べようよ。」


二人、で?

俺とお前が??


「持って来てもらえるよう、頼んで来るよ!」

「あ、ちょっ!?」


待てよ!!

そう制することは出来なかったが、あの足を止めたところで、俺はあいつに何を聞いたのだろうか。俺は今回だけ、あいつが俺を無視したことを許してやることにした。

しんと静まった部屋は、それでも賑やかな気がした。
勿論、この部屋には俺一人しかいなくて、当然独り言を言っているわけでもなくて。

ああ、そうだ。
あいつが…アラジンが、俺のために戻って来るって分かってるから、こんな感覚なんだ。

なんか、妙な感じだ。
期待、安心、歓喜?どれも違う。自分でもよく分からなくて、ちょっと気持ち悪ぃくらい、初めての感覚だった。



そう…チビが、俺のために、戻って来るんだ。






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