7.5

うぅぅ、どうしよう・・・
アドレスの交換を終えて赤也君が部活に向かった後、私はその場に残ったまま携帯を握り締めていた。
頭の中を過ぎるのは、先ほどの赤也君の言葉。


「 今日部活終わるまでになんか送ってこいよ・・・送ってこなかったら催促のメールすっからな 」


・・・なんかって、何を送ればいいんだろう?


(・・・・・・・・・・・・・)


ダメ、全然思いつかない・・・
メール一つもまともに考えられない自分が凄く情けなく感じる。
お母さんやお父さん相手ならつまらない内容でも平気で送れるのに・・・


(相手が赤也君だと思うと、もうどうすればいいかわかんない・・・)


しかも自分から送るとか・・・
どんな内容にすればいいかもわからない。
私はメールの作成画面を開いて両手で携帯を持ったまま動く事が出来なくなっていた。
するとその時・・・


「麻衣?こんな所で何してるの?」

「うっ、莉緒ちゃ〜ん!!!」


後ろからかかった声に振り向けば、首を傾げた莉緒ちゃんの姿。
格好からして、どうやら部活に必要な道具を取りに行った帰りらしい。
しかし私の酷く情けない声を聞いて、莉緒ちゃんは私の傍までやって来てくれる。


「どうしたの?」

「メッメールが・・・」

「メールが?」

「打てない・・・」

「えっ?携帯壊れたの?」


莉緒ちゃんの驚きの声にブンブンと首を横に振る。


「ちがっ、赤也君とアドレス交換して、それで、部活が終わるまでに何かメール送らないといけなくて・・・」

「あぁ、打つ内容が思いつかないの?」


莉緒ちゃんの言葉に、今度はコクコクと首を縦に振った。
すると大事ではないとわかって安心したのか、莉緒ちゃんが少し笑みを浮べて口を開く。


「何でもいいんだよ。切原相手にそこまで緊張する必要ないって」

「でっでも・・・」

「ん〜〜〜いつも切原に言ってるような事でいいんだよ」

「いつも言ってるような事?」

「そうそう」


莉緒ちゃんに言われて普段の会話内容を思い出してみる。
でもほとんど私は赤也君の話を聞いているぐらいだ。
私から話す内容と言えば、お弁当のおかずのリクエストを聞くか・・・


「・・・部活頑張ってね、とか?」

「あぁ、それでいいんじゃない?麻衣は難しく考え過ぎなんだよ」

「うぅ、そうかなぁ?」


私はそう答えつつも、メール内容を打ち込んでいく。
やっぱり一人だと緊張するし、莉緒ちゃんが傍に居てくれたら心強い。

『 部活頑張ってね 』

打ち込んだ内容を何度も読み返す。
打ち間違ってないよね?
誤字脱字ないよね?
何度も確認して、それから横にいる莉緒ちゃんへと視線を向ける。


「こっこれでいいかな?」

「ん〜〜〜後はこれにハートでも付けとけばいいんじゃない?」

「えぇっ?!むっ無理!!!」

「無理って・・・だっていくらなんでもこれじゃ寂びし過ぎるでしょ?」

「でも、ハートとか、赤也君きっと迷惑だよ・・・」

「・・・あのね、いちおう今切原の彼女は麻衣でしょ?」

「・・・・・・・・・うん」


莉緒ちゃんの言葉を聞いて、さっきの赤也君の言葉が頭の中でリピートされる。
遠慮しなくていいと言ってくれた。
友達や先輩達の方を優先させようとしなくてもいいと言ってくれた。
「俺ら付き合ってんだろ?」って・・・・


「・・・・・・・」


顔が熱くなるのを感じる。
ゆっくりと指を動かして、絵文字の選択画面を開く。
自分の心音が早くなるのを自覚しつつ、その中から赤く可愛らしいハートを選んでみた。

『 部活頑張ってねv 』


「あっ、それでいいじゃない」


携帯の画面を横から見ていた莉緒ちゃんがそう言って笑みを浮べる。
しかし・・・・


「〜〜〜〜〜っ、やっぱり無理!!!」


画面を見てるうちに耐えられなくなって、即行ハートを消して送信ボタンを押してしまう。
すると隣から上がる非難の声・・・


「あぁっ!せっかく付けたのに何してんの!」

「・・・だって、やっぱり恥かしいんだもん」


携帯をギュッと握り締めてそう言えば、数秒して莉緒ちゃんは溜息を吐いた。
そして何故か私の頭を撫で始める。


「まだ麻衣には難易度が高かったってことね。・・・まぁメールは送れたんだしいいんじゃない?」

「うん!」


莉緒ちゃんの言葉に、私は笑みを浮べて頷いた。
赤也君から課せられた難題を突破できて満足感が胸に広がっていたのだ。
・・・だから思いもよらなかった。
そんな過程を得て送った赤也君へのメールで、男子テニス部部室内で一騒動あったなんて・・・
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