白雪姫


その少女は雪のような白い肌を持ち



綺麗で艶やかな紅い唇で微笑む




そして、人一倍愛に飢えていて



自分だけを見つめてくれる王子様を待っているのです


















女の子なら誰だって一度くらいは願った事があるはず・・・


おとぎ話の世界のように、素敵なお姫様になって、素敵な王子様が来てくれるのを・・・・




私ももれなくそう願っていた少女の一人。


まぁ、もう少女というには正直厳しいかもしれないけど・・・


でもね、今でも時々思うのよ。


もしエドが私だけを見つめてくれる王子様だったらって・・・


















ザワザワ・・・・




「んっ・・・」



何やら騒がしい気配に、眠っていた私の脳がゆっくりと活動をし始める。


薄っすらと目を開けて一番に目に入ってきたのは、いつもの部屋の天井ではなく金色のカール・・・


ん?金色のカール?



どこかで見たことがあるような・・・







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「・・・ひっ、きゃーーーーーーーーーーーーー!!!」





それが何なのか、いやそれが誰なのかが分かった途端私の脳は一気に活動し始めた。


そして私に素早く指令を出すのだ。


『 危険です。至急悲鳴をあげ、遠ざかって下さい 』って・・・



私は脳からの指令に素直に従い、ベッドから転げ落ちそうな勢いでその人から遠ざかった。



そう、豪腕の錬金術師、アレックス・ルイ・アームストロング少佐から。




「むっ?どうしたのだ?」




ベッドの向こう側から少佐は不審そうな顔でこちらを見上げていた。


そう見上げ・・・・


見上げ?








「・・・・なっなんでそんなミニマムなんですか?!」





ありえない・・・


なんであの少佐が私より背が低くなってるんですか?!


しかも私の腰ぐらいまでしか背がないなんて・・・


いや、そんな背でもその顔と筋肉だなんて・・・


もういろんな意味でありえない・・・



つーか気持ち悪い!






カチャッ




私が一人パニックに陥っていると、部屋のドアが静かに開いた。



(助かった!)


誰だか知らないけど、こんな状況下を一人で乗り切れるほど私の神経は図太くない。


しかし・・・








「むっ?何があった?」


「おぉ、無事であったか。我輩心配したぞ」







「イヤーーーーーーーーーーーーー!!!」





なーんで!


どーして?


私何かした?!





こんな・・・こんな・・・





「ミニマムだけでも精一杯なのに、その顔3つなんて勘弁して下さい!!!」





私は心からそう叫んだ。


あぁ、これは悪夢に違いない・・・


でも同じ悪夢ならまだマシなのがあったのではないだろうか?





私が今の状況を受け入れられずにいると、先ほど現れたミニマム少佐の後ろに隠れていて見えなかった人物が声をあげた。





「だから言わんこっちゃない!どいて下さい少佐!!!俺が落ち着かせますから」




そう言って前に出てきたのは・・・




「あぁ、今度はミニマムハボック少尉だぁ〜〜〜」


私はどこか救われたような気分でハボック少尉に助けを求めた。





「これはいったいどういう事なんですか?!」




















「つまり、私が森の中で倒れている所を少尉たちが助けて下さったんですね?」



私の確認するような問いに、少尉はゆっくりと頷いた。


どうでもいいけど、ミニマムだとタバコが大きく見えるよ・・・




「で、ここからがもっとも確認したい所なんですが・・・」



私は額に手を当てて、苦渋の表情を浮かべて口を開いた。


少尉は視線で先を促す。


だから私は意を決して問いかける。




「私が白雪姫で、少尉たちが小人っていうのは何か新しい冗談ですか?」




私のこの問いに、今度は少佐が答える。


「冗談ではないぞ?町で聞いていた容姿と酷似しているし、我輩たちはどこをどう見ても小人ではないか」




その顔で自分は小人なんて言わないで下さい・・・


声に出して言いたかった。


でも本人はいたって真面目な様子で話すからさすがに言えなかった。




それより今はこの状況だ・・・


ここが幼い頃よく読んでいた「 白雪姫 」の世界だというのはどうやら事実なのだろう。


きっと夢かなんかなんだ。


いや、そうじゃないと困る・・・



あんなのが実際に3人もいると本当にやるせない。




だが、私はそこまで考えてハッとした。


確か白雪姫に出てくる小人の数って・・・・





「ねぇ、少尉。他に小人3人いるはずじゃないの?」



そう、そうだ!


確か白雪姫に出てくる小人は全部で7人だったはず。


少佐3人に少尉1人という事は、あと3人どこかにいるはずなのでは?



「 この際この状況を楽しんでやれっ! 」という気にまでなってきた私は、次にどんなミニマムキャラが出てくるのか期待して少尉に問いかけた。




だが・・・・







「・・・・・・・・・・・・・・・俺はもうあんな暑苦しい兄弟、3人で充分っす・・・いや限界っす・・・・」



あぁ、切実な訴え。


ごめんね、少尉・・・


この状況楽しむなんて、辛い毎日に耐えてきたであろう少尉に対して失礼だったよね。




私は心の中で少尉に精一杯同情した。



そんな私たちの後ろでは、少佐達3人が筋肉自慢大会を開いている真っ最中だった。



どうでもいいけど、姿形一緒なんだからきっと勝敗はつかないよ・・・



















(とりあえず、話を完結させれば元の世界に帰れるかもしれないよね?!)



次の日、少尉たちが仕事に行っている間、家の中を掃除しながら私はあれこれ考えていた。


そして出た結果は、「やっぱり白雪姫の世界なのだから完結させればいいだろう」だった。




(と、いう事は私は何をすればいいんだっけ?)



箒を握り締めたまま、私は空中を見つめて必死に白雪姫のストーリーを思い出そうとした。



しかしその時・・・




コンコンッ



家のドアをノックする音が響いた。


(あっ!そうか・・・魔女がやってきて、白雪姫は毒リンゴ食べて死んじゃうんだ)




実際に死ぬわけではなく、喉に詰まらせるだけだけど・・・


とにかく今はストーリーを進めてみようと、ゆっくりとドアを開けてみた。


いったい誰が魔女役なのか・・・


ドアの向こうに立っていたのは・・・








「リンゴはいらんかね?」





・・・・・・・・・・大総統、あなたですか・・・・






「ん、リンゴは嫌いかね?」


「あ、どうも」



どこか呆然としながらも、私は大総統からリンゴを一つ受け取った。


そしてしげしげとそのリンゴを見つめる。



(これが毒リンゴか・・・・)



数秒いろいろな角度からリンゴを見ていた私だが、そこで視線を感じてパッと顔を上げる。






・・・・・・・・・・・・・・見てる


大総統がニコニコしながら、私がリンゴ食べるの待ってるよ・・・



あまりにも有無を言わせないようなその笑顔に、私は顔を引き攣らせながらも意を決してそのリンゴを一口齧った。



するとその途端、体から急に力が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。





(あー意識は残ってるんだ〜。でも体は動かない・・・)



私はどこか冷静にそんな事を考えていた。



すると頭上でパキパキと聞き覚えのある音がした。


そして続いて声が耳に届く。





「じゃあね、白雪姫」






・・・・・・・・・・・エンヴィー、あんただったのね・・・・



















それから私は、帰ってきた少尉達に発見された。


少佐3人はドバドバ泣いて、少尉はそんな3人の対処に忙しそうだった。


そして数時間経って、やっと落ち着いてきた少佐達の手によってガラスの棺が錬成された。



この時にはもう、少尉はとっても疲れ果てていた。






でもやっぱり少佐って、メルヘンチックよね・・・


この棺すごく繊細で綺麗にできてるよ・・・


花まできちんと入れてあるし、センスいいと思う。


私は棺の中でのん気にそんな事を考えていた。






だが、ここまで来ればあと一歩じゃない!




(さー後は王子様が来るだけね!!!)




そうすれば元の世界に帰れる。


あ〜なんだかんだで楽しかったねこの世界。


なーんて事を考えていると、突然白雪姫の最期のシーンが頭の中に流れ込んできた。







白雪姫は王子様のキスによって目覚めました


王子様のキスによって


王子様のキス



キス・・・







(待って待って待って!!!)



それ、困る!!!


キスとかまだした事ないし!!!


それに、勝手にされたら困るし!!!




つーか王子様って誰よ?!


今までの流れから行くと、絶対まともじゃないって!


どうしよスカーとか出てきたら!!!




動かない体の中で、精神だけが大パニックに陥っていた。


だがそんな私なんかお構いなしに、ストーリーは進んで行くみたい・・・




「おお、これは王子。よくぞこのような所まで」


「どうか白雪姫を一目見て行って下され」


「とても美しい娘ですぞ?」





あ〜〜〜余計な事を、少佐トリオ!!!




棺の蓋がゆっくり開けられた。







(あぁ、もうダメッ!!!)




私がそう心の中で叫んだ瞬間。








「へ〜ほんと綺麗だな」



王子の声が耳に届いた。


いや、この声は・・・





(エドッ!!!)



そう、私の目の前には心の中で密かに想っている相手、エドワード・エルリックがいた。



(あ〜〜〜〜〜〜〜神様って本当はいるのね!スカーじゃなくてほんと助かりました!ありがとうございます!!!)



私が心の中で感無量していると突然・・・




「温かいな。生きてるみてーだ」



エドは私の頬に手を添えてそう言った。


かぁ〜〜〜〜っと体が熱くなるのを感じる。


恥ずかしい・・・恥ずかしすぎる・・・・


私はやっぱり一人今の状況にうろたえていた。




しかし、ストーリーはというものはやっぱり私なんかお構いなしに進んでいくもので・・・




(待って!エド待って!!!)



だんだんと近づいてくるエドの顔に、私は心の中で思いっきり叫んだ。


でも当然と言うかなんと言うか、エドは止まってくれない・・・



(うっ嬉しいんだけどね、嬉しいんだけど・・・やっぱりこういうのってもっとちゃんとした時にして欲しいというか、なんと言うか〜〜〜)



私がどれだけ叫んでもエドには届かない。


でも着実にエドの顔は近づいて来て・・・


たぶんもうタバコ一本分の距離しかないよ!!!




あぁ、キスされる!!!






そう思った瞬間・・・・















「おいっ、 マイ !いつまで寝てるんだよ?!」



その声に、私はバッと飛び起きた。




「えっ?・・・へっ?」



飛び起きた私の隣では、エドが腰に手を当てて呆れたような表情をしている。


周りをキョロキョロ見回すと、先ほどの棺やミニマム少佐達はもちろんいなくて、あるのは本ばかりだった。




「あれ?ここどこ?」



私はポカンとした表情をしていた事だろう。


エドはそんな私の様子に呆れながらも答えてくる。




「図書館に決まってるだろ?急に消えたと思ったらこんな所で寝てやがって」



エドはそこまで言うと、「帰るぞっ!」って言って歩き出してしまった。




「まっ待ってエド!!!」



私は慌ててエドの後を追いかけた。


あまりにも慌てていたため、読みかけの本を返すのを忘れて・・・







その読みかけの本は、閉館後係りの人が返すまでずっと机の上に乗っていた。




『 Snow White 』
















その少女は雪のような白い肌を持ち



綺麗で艶やかな紅い唇で微笑む




そして、人一倍愛に飢えていて



自分だけを見つめてくれる王子様を待っているのです













まぁ、実際は待ってるだけじゃ王子様はやって来てくれないだろうけどね!



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