5.I love you.


「愛しているよ、 マイ 」







日に何度も聞くその言葉


ねぇ、あなたはその言葉の意味・・・・



ちゃんと分かってる?
















「愛しているよ、 マイ 」



顔には決して出さないけれど


仕事で疲れて帰って来たロイが私を抱きしめながらそう言った。


いつも、会うたび、抱きしめられるたび繰り返されるその言葉・・・


私はそれとなくロイの腕から抜け出しつつ、これもまたいつものように答える。






「・・・・・ありがとう。夕食出来てるわよ?用意しようか?」



そう尋ねつつも答えを聞く前にキッチンへと向かう。


だってここで「 あぁ、頼むよ 」って返ってくるのがいつもの流れなんですもの。


でも、私の背に届いたのは、いつもと違うロイの声






「君からは返してくれないんだな」



「えっ?」




足を止めて振り返る。


しかしそこにいるのは先ほどの声が幻聴だったのかと思うほど、いつもどおりの表情をしたロイ。


でも、確かに聞こえた声。


私はもう一度聞き返そうと口を開きかけたが、一瞬早くロイが上着を脱ぎながら口を開く。






「あぁ、夕食は後にしよう。今日は暑かったからな、先に入ってくるよ」




そう言ってロイは軽く笑いながら浴室へと足を向けた。


その様子はいつもどおり・・・・


でもね、確かにいつもとは違う背中だった・・・・・














浴室からシャワーの音が聞こえ始めて数分。


私はソファーの上に膝を抱えて座り込んでいた。






「君からは返してくれないんだな」





ロイの言葉が頭から離れない。


・・・意味が分からないほど幼稚な恋愛をしてきたわけじゃない。


ロイは、私からの「 愛してる 」が欲しいんだ・・・


でも、どうしてもそれに答えられない。


だって・・・・






「あなたの愛してるは軽いんだもの・・・」





そう呟いて顔を俯けた。


思い返せば、付き合う前から聞いてきた言葉。


時には私以外の女にも言っていたのを聞いたことがある。


何度も何度も繰り返されるたびに、ロイからの「 愛してる 」がどこか挨拶のような軽い言葉に聞こえてきた。


誰にでも言えるほど、ロイにとっては言い慣れた言葉なのだろうか?






だから、ずっと言わなかったのに・・・



私からも同じだけ返したら、きっと私の心は冷えきってしまう。


嫌でも、あなたと私の『 愛してる 』の重さの違いが見えてきて・・・


その違いが錯覚に変わり、私ばかりが愛してるように感じてきて・・・






きっと、私はあなたに別れを告げてしまう。









「ロイ・・・・・」





キツク目を瞑って膝を抱え込んだ。


そしてふと思考の世界から現実へと帰る。


・・・・・シャワーの音がいつの間にか止んでいた、現実へと






ソファーから立ち上がって振り返る。


そこには髪を大雑把に拭いたロイが、どこか悲しげな目をして立っていた。


その目を見て、私は何故だか分かってしまった。


今まで見て見ぬフリしてきた擦れ違いを、今日は直視しなければいけないんだ・・・


ずっと関係が壊れてしまいそうで直視できなかった擦れ違いを・・・・・







「君は何を考えている?」




ロイの両手が肩へと触れた。


答えられない・・・


答えたくない・・・


私が何も答えずにいるとロイが本当に小さく口を開いた。







「・・・・・ マイ 」




悲しげな呟きに俯けていた顔を上げる。






「・・・・・・」



「・・・・・・」






今、あなたにそんな悲しそうな顔をさせているのは・・・・私なのよね?


数秒見詰め合った後、耐えられなくなり私は小さく口を開いた。






「私は・・・・・・ロイの『 愛してる 』が不安で堪らない」





思い出すのは両手で顔を覆った女達。


私は、ロイに『 愛している 』と言われつつもあっさりと忘れられていった女達を知っている。


『 愛してる 』と答えた分、深い傷を負った事も・・・・


だから・・・






言葉を続けることが出来なかった。


自分でもハッキリとしないこの気持ちをどう言葉にすればいいのかが分からなかったから・・・


再び顔を俯ける私を見て、ロイがどんな表情をしたのかは分からない。


でも、訪れたのはまた沈黙・・・


その沈黙に耐え切れなくて、目頭が熱くなってきたその時・・・


ロイが耳元で囁いた。








「愛しているよ、 マイ 。愛している」





ビクッと体が震えた。


ロイはそんな私を抱きしめつつ、ずっと囁き続ける。


「 愛している 」と・・・・


何度も、何度も囁き続ける。






ロイの意図することが分からなくて、私は困惑気に顔を上げた。


すると、そこにはいつも通りの笑顔を浮かべたロイ・・・







「私が何度『 愛している 』と言ったら、君は返せる?」






「えっ?」








一瞬、ロイが言った言葉の意味が分からなかった。


するとロイは微笑んで続ける。






「同じ数だけ返してくれなくてもいいんだ。

ただ同じ気持ちだけ返してくれれば、今はそれでいい・・・」






いつか同等になるように、私も日頃の行いを気をつけよう・・・


そう言って、あなたが笑うから・・・


だから今までの不安とか、ただ私が聞きたいとかいろいろ割増して・・・・








「100回。100回『 愛してる 』って言って?

そしたら私は1回だけ『 愛してる 』って言ってあげる」





たくさんたくさん気持ちを込めた、私の『 愛してる 』を・・・・


ロイは私の言葉に微笑むと、抱きしめる腕に力を入れて口を開いた。






「では、君が100回私に『 愛してる 』と言ってくれたら、君は私のものになってくれるのかな?」





その言葉に、その言葉の意味に顔を染める私の耳元で・・・


あなたはいつものように『 愛している 』と囁いた。



ただいつもと違うのは・・・






その『 愛してる 』が、特別なものに聞こえたこと・・・・・









「愛しているよ、 マイ 。愛している」









「・・・・・私も、ロイの事・・・・・愛してる・・・・・」



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