4.If・・・
もし
私があの時違う道を選んでいたなら・・・
もし
私があの時もっと強い心を持っていたなら・・・
もし
私とあなたがもっと早く出会っていたなら・・・
違う未来があったのかもしれないね・・・
「 マイ 、そんな所で何やってんの?」
後ろから急に聞こえてきた声。
初めこそ気配も無く表れた事に驚いていたけど、繰り返されれば嫌でも慣れる・・・
しかし、今回は嫌な時に見つかってしまった。
私が振り向けずにいると、彼は・・・エンヴィーは私の肩越しに地上を見下ろす。
そしてすぐに何かに気づいてニヤッと笑った。
あぁ、バレたらしい・・・
私が何も、言い訳すらも言えずにいると、エンヴィーは私の方に顔を向けて口を開く。
「・・・・・へぇ、鋼のおチビさん見てたんだ」
その言葉に、反応しちゃダメだと分かっていたのにビクッと体が揺れた。
まともにエンヴィーの顔が見れない。
でも、笑っているということだけは気配から分かった。
「まぁ、 マイ はもともとおチビさんと同じ人間だからねぇ〜。
仕方ないと言えば仕方ないよね」
顔が上げれない・・・・
言葉の調子とは裏腹に、エンヴィーの気配は凍てつくほど鋭くなっている。
もしかすると、この場で殺されるのかもしれない・・・
そう考えが過ぎったその時・・・
ダンッ
壁に強い力で体を押し付けられた。
そして顎に手をかけられ無理やり顔を上げらされエンヴィーと視線が交わる。
一瞬息が出来なかったのは、壁に押し付けられた衝撃でだろうか・・・
それとも、今までに見た事無いほど冷たい目をしたエンヴィーにだろうか・・・
「でも マイ とおチビさんとじゃ、決定的に違うところがあるの、気づいてる?」
聞きたくない・・・
そう思っても、私はエンヴィーから視線を逸らせなかった。
エンヴィーはその事に満足気に笑った後、耳元で囁いた。
「 マイ の手はもう汚れてるだろ?」
エンヴィーのその言葉に、反射的に過ぎったのは死の恐怖に顔を歪めた人々。
「ほら、見てごらんよ。
マイ の手はおチビさんと比べるまでも無いほど、真っ赤に汚れてるだろ・・・」
次の瞬間には物言わぬ残骸と化した、私がこの手で殺した人々。
息が上手くできなくて、ヒュッと喉が音を立てた。
体が震え始めて自分では止めることができない。
エンヴィーはそんな私の状態を見て、さも可笑しそうに笑った。
そしてさらに口を開こうとする。
私はその事に気づいて、必死にエンヴィーを押しのけて叫んだ。
「いやっ!もうやめて!!!」
恐怖が背中を走り、必死になって耳を塞ぐ。
「何がいやなんだよ?
あの時、僕たちが手を差し伸べてやった時、拒むどころか縋ってきたのはおまえだろ?」
エンヴィーの言葉に私は弱々しく首を振る。
何を否定しようとしているの?
・・・・エンヴィーの言っていることは全て真実だというのに
エンヴィーは俯けた私の顔を覗き込むようにして笑いながら口を開いた。
「 マイ とおチビさんとじゃぁ、もう住む世界が違うんだよ」
エンヴィーのその言葉にガクッと足の力が抜けた。
やめて・・・・
それ以上言わないで・・・・
言われなくたってそんな事、私が1番分かってるよ・・・・
辛過ぎて何も考えられなくなってきた・・・
屋上に風で運ばれた、ジャリッとした砂の感触が手に伝わる。
私が殺した人たちは、最後にいったい何を感じただろうか?
ゆっくりと手を視界の中に入れる。
あぁ、エンヴィーの言う通り・・・・
どんどん私の手は血で赤く染まっていくよ。
ぼぉっと汚れた手を眺めていると、後ろからギュッと抱きしめられた。
暖かくは無い。
ただ力だけが肌に伝わってくる・・・
抵抗しない私に、笑ったのが気配で分かった。
そしてゆっくりと顔を近づけてきて、耳元で囁かれる・・・
「 マイ にはね、もう僕しかいないんだよ」
もし
私があの時違う道を選んでいたなら・・・
もし
私があの時もっと強い心を持っていたなら・・・
もし
私とあなたがもっと早く出会っていたなら・・・
違う未来があったのかもしれないね・・・
もし
もし
もし
どうにもならない事ばかり考えて
今日もまた色のない涙が零れ落ちる
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