3.Do you know?
あなたは知らないんでしょ?
私がこんなにも
あなたに縛られているってこと・・・
「あれ? マイ もそんな本読むんだー」
昼休み、前の席の子がいないのをいいことに椅子に座ってそう驚きの声を上げたのは、同じクラスのウィンリィだった。
「ウィンリィも読んでみたら?けっこう面白いよ?」
栞を挟んで本を閉じ、表紙を見せながら薦めてみても、返ってくるのは眉を寄せた表情。
「止めとく。頭痛くなりそうよそんな本・・・」
ウィンリィのその言葉に、改めて本のタイトルを読み返してみる。
『 錬金術の法則と世界の仕組み 』
・・・・・確かにこの学校に来る前の私だったら1ページも読まないうちに寝ていただろう
そんな私がこういう本を読み出したきっかけは・・・・
「よぉ、 マイ !ウィンリィ!」
いつもより数段機嫌の良さそうな声に名を呼ばれ、私たちは揃って声のした方を振り返った。
そこには厚い本を数冊抱えた隣のクラスのエドが、ちょうど私たちの教室へと入ってくる所だった。
自然と綻ぶ顔をなるべくいつものように取り繕いつつ、呆れたような声で私は口を開く。
「な〜にエドー?まーたそんなに図書室から本借りてきたの?
そろそろ全部読んじゃったんじゃないの?」
いつもならここで軽く口喧嘩になるのだが、今の上機嫌のエドには私のからかいの言葉も通じないらしい。
その証拠にありえないほどのほどの笑顔で私の机の上に本を置きつつ口を開く。
「前から頼んでた本、やっと取り寄せてもらえたんだ!
見てみろよこれ!最新の研究発表の内容まで載ってるんだぜ!!!」
一冊の本を手にとって、パラパラと捲りながら「ここがこーだからいい!」とか「ここがこうなってるのがこの本のいいところだ!」とか早口で捲くし立てる。
ウィンリィはエドの説明が理解出来ないのか、それとも教科書より難しくぶ厚い本を目の前に置かれてなのか、とにかく表情を歪めている。
しかし、未だ基礎程度の内容しか把握していない私だけど・・・
「あっ、ホントだ・・・・すごく詳しく深い所まで書かれてる」
いつの間にか本の内容に引き込まれて、ポツリとそう漏らしていた。
賛同してもらえた事が嬉しかったのか、エドがさらに嬉々とした様子で喋りだす。
「だろっ!すげーんだってこの本!
他にもこの本とか参考になりそうな文献が沢山載ってて・・・」
このまま止まらないような勢いで喋っていたエドの話を止めたのは、昼休み終了5分前を告げる予鈴だった。
エドは予鈴が鳴り始めるなりゲッと顔を顰めて慌てて本を抱え始める。
「ヤベッ!俺のクラス次移動だった!」
「 あの野郎1秒でも遅れたら嫌味言ってくるからな、しかも俺だけに! 」とかなんとか愚痴りつつもエドは急いで廊下へと走っていった。
私はそんなエドの背中が見えなくなるまで見送って、思わず苦笑していた。
しかし見えなくなったはずのエドの顔だけが再びドア横からバッと出て来て口を開く。
「 マイ !この本次読んでみろよ!!!俺が読んだら教えてやるから!!!」
それだけ言って再び慌てたように見えなくなったエドの言葉が私の頭の中をグルグル回る。
たったこれだけのことなのに・・・
「・・・・・ マイ がそんな本読み出した理由、分かった気がするわ」
ウィンリィの呆れた声に思考の世界から現実へと帰ってくる。
その言葉の様子から、自分が今どんな表情をしているのかもだいたい分かった・・・
分かりやすい証拠を浮かべている以上、何も言い返すことはできない。
ウィンリィに自分の気持ちを知られてしまった恥ずかしさと少しの悔しさに、私はウィンリィからフイッと視線を逸らした。
すると聞こえてきたのは苦笑と、優しげな声・・・
「頑張りなよ、応援してあげるから!
・・・・・それにね、なんか最近 マイ 綺麗になったよ?
前より笑うようになったし、何より・・・・・幸せそう」
その言葉に、今度は自覚があるほど顔を真っ赤にさせてしまった・・・・
あなたの好きなものが、私の好きなものになっていって
あなたの楽しい事が、私の楽しい事になっていって
あなたの笑顔が、私の笑顔の元になっていって
あぁ、あなたは知らないんでしょ?
私がこんなにも
あなたに縛られているってこと・・・
私がこんなにも
あなたに幸せを貰っていること・・・
私がこんなにも
あなたを愛していること・・・・
・・・・悔しいから当分の間は教えてあげないけど、いつか・・・・ね
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