2.Just a moment.
「 待って、置いていかないで! 」
そう言って手を伸ばしたのは、まだ幼くて自分の事しか考えていなかった私
「 わりぃ・・・でも前に進まねぇーと・・・・ 」
そう言って背を向けて旅立って行ったのは、まだ幼いのに甘えを捨て目標に向かったあなた
あの時、私はあなたの背をただ見つめて泣く事しかできなかった・・・・・
伸ばした手を掴んでもらえず、どこか裏切られたような、捨てられたような気分だった。
本当に辛かったのは、エド、あなただったのにね・・・・・
夜、ふと目が覚めた。
昼間ピナコばっちゃんが「今夜は風通しとかないと暑苦しくて寝られやしないだろうね」と言っていたのを今になって思い出す。
そして暗闇に慣れた目で見たのはしっかりと鍵まで掛かった窓。
こんな田舎町に泥棒なんて来ないだろうけど、一人になってからどうも鍵を閉めていないと不安になる。
しかし今日ばっかりはそうも言ってられない。
ここまで暑いと寝るに寝れないというものだ・・・
私はベッドから降りると、部屋の窓を開けた。
その瞬間に感じる乾いた風。
汗ばんだ今の私にはまさに心から欲するもの。
私は窓を開けたままの状態で数秒葛藤を繰り広げた後、結局は欲望に負け小さな灯りを持って外へ出た。
サクサクと、足を進める度に草たちが音を立てる。
私が少々踏んだところで数日後にはまた真っ直ぐと太陽に向かって伸びてるんだ。
名前も知らないような、そこら辺に沢山生えている草だけど・・・・
「・・・・・強いな」
無意識のうちに言葉が零れた。
前はこんなこと考えもしなかったのに・・・・
今では本当にそう心から思えるようになった。
風をもっと感じるために外へ出たと言うのに、気づいたらまたここに来てしまっていた。
「・・・・・エド」
そう呟いて灯りを高く掲げ、辺りを照らす。
そこは元々エドとアルの住んでいた場所。
今は・・・・・焼け焦げた木材たちなどが横たわる場所。
エド達が旅立ってすぐの頃は、ここに来たら泣くことしかできなかった。
だって、この焼け焦げた跡はエド達が本当にもうここにはいないという事を表しているのだから・・・
そう思っていた私が、いつ頃だっただろうか?
ここで泣くことが無くなった。
だって、ここは・・・・
「・・・・・どんな形だろうと、エド達の決意の表れだもんね」
そう思ったとき、ここで泣くことがエド達に対して失礼な気がした。
だから・・・・
「ここではもう泣かない。ううん、エド達に会うまで、もう泣いたりしない」
私はそれだけ呟くと、家へと足を進めた。
再びサクサクと草たちが音を立てる。
私は家が見える辺りまで着くと、おもむろに灯りを消して空を見上げた。
小さい頃から、エド達と一緒に見ていた頃から変わらない夜空が広がっている。
この空の下に、同じ空の下にエド達もいるんだと思ったらどこか嬉しく感じた。
今すぐ会いたい。
またあの頃のように一緒にいたい・・・
口から出かけた願いを、グッと飲み込む。
まだダメ・・・・
いくらあの頃よりかは成長したと言っても、私はまだあなたの隣を歩けない。
でも、いつか必ず会いに行くから・・・・
だから、それまでこの願いは自分の中に秘めておくの。
その代わり・・・・・
「エドとアルが元気に旅を続けられますように・・・」
それだけ呟いて、私は歩き慣れた家までの道を走った。
暗闇の中、知らず知らずのうちにきっと私は笑っていた。
走って、走って・・・・
きっと追いついてみせる!
だから・・・・
あとちょっとだけ待って?
まだ私には勇気が足りないの
もう少しだけ待って?
必ずあなたに会いに行くから・・・
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