1.貴方にはわからない


あなたにはわからないのよ


この胸の痛みも


この胸の切なさも






私だけを見て欲しいっていう、この気持ちも・・・
















気付いた時には好きだった。


何がきっかけだったとか自分でも分からない。


でも好きなの。


どうしようもないほどあなたが、エドが好き






初めてこの気持ちに気づいたのは、あなたが旅立って行った日


エドが行ってしまう・・・・


そう実感したときに初めてこの胸の痛みに気付いた。


幼馴染への気持ちとは違う。


切なくて辛くて、遠ざかる背中に愛しさを感じた。





あれから数年経ったけど、胸の痛みも切なさも消えて無くなるどころか酷くなっている。



しかもここ数日、あなたが久しぶりに帰って来てからは特に・・・・・











「あんたねー!もっと機械鎧の手入れちゃんとしなさいよ!」




「うっせぇなー!これでもちゃんとやってんだよ!」



「どこがよ!!こことかこことかそぉーとぉー酷いじゃない!・・・あーここに傷もある!!!」



「あーーー分かったよ!!だから静かにとっとと整備してくれ!」







ズキッ・・・




胸が悲鳴をあげた。


イタイイタイイタイ・・・・


エドとウィンリィが話してる姿を見るだけで、胸が張り裂けそうになる。


前はこんな事なかったのに・・・


前はこの光景も日常の一部だったのに・・・


・・・・・・今は泣きそうなほど辛いのはどうして?






「 マイ 、どうかしたの?顔色悪いみたいだけど・・・」




アルの言葉に、私はいつの間にかエド達から目を逸らして俯いていたことに気付いた。


顔を上げると、アルが心配そうにこちらを覗き込んでいる。


私は気分の悪さを感じつつも、なんとか笑みを浮かべて心配をかけないように答える。





「大丈夫だよ〜。ちょっと近頃寝不足なだけだから」




「でも・・・・」



私の答えを聞いても尚、アルは心配そうな顔のまま。


昔から私は嘘をつくのが下手だったからな・・・


私は苦笑しつつ、更に言葉を繋げようとした。



しかし・・・・






「おいっ、どうかしたのか?」



私達の様子気付いたのか、エドがこちらを向いてそう口を開いた。


思わず目が合う・・・


私は頬がカァッと熱くなるのを感じて慌てて目を逸らしアルに向かって口を開く。






「わっ私やっぱり帰るね!ちょっと休めばすぐ治ると思うから」




私はそれだけ言うと、アルの呼び止める声も聞かずに外へと駆け出した。


歩き慣れた家への道を走りながら、心の中で自分を叱咤する。




バカバカバカバカバカ・・・・


あんなあからさまな態度をとって・・・


きっと不審に思われた。






(もう嫌だ・・・)




辛い


苦しい


胸が張り裂けそうだよ・・・






思わず溢れ出しそうになる涙を手で拭う。


足は段々とゆっくりになり、とうとう道端で止まってしまいしゃがみ込んだ。


この道だって、昔は4人で仲良く歩いてたのに・・・・


あの頃みたいにまた笑いたいのに・・・・・





(苦しいよ・・・・・)




エドとウィンリィが笑い合う姿を見ていたくない・・・・





(こんな自分、大嫌い・・・・)




もう何も考えず、悩まずに過ごしたい・・・・


・・・・・自分の気持ちに気づいた時点で、そんな事無理だって分かってるのにね


思わず苦笑が漏れた。





するとその時・・・・









「 マイ ッ!!!」




駆け音と共に響くその声は・・・・




「エド・・・・」




俯けていた顔を上げ振り返る。


エドはあっという間に私の目の前まで来ると、少し乱れた息を整えてから口を開く。







「おまえ、体調悪いんだってな。たくっ、無理して一人で帰ろうとするなよ」




溜め息混じりに紡がれるその言葉の意味よりも、まずどうしてここにエドがいるのかという事が理解できなかった。


私は呆然としつつも口を開く。





「・・・な、なんでここにいるの?」




私のその問いに、エドは「はぁ?」と間抜けな声を出してから顔を微妙に顰めて答える。



「おまえは昔っから無理しすぎなんだよ。

おらっ、立てるか?送ってってやるよ」



その言葉と共に差し出された手を、私は呆然と見る・・・


だって、整備の途中だったのに・・・・


・・・・・まさか私のために抜けてきてくれたの?




一向に立ち上がろうとしない私に焦れたのか、エドがグッと私の腕を掴んで立ち上がらせる。


引張られたことにより当然お互いの顔はその反動で近くなり、私はそこでようやくハッと我に返った。




「ちょっ、大丈夫だから!」




顔の熱を感じつつも、エドの手から逃れるように身をよじる。


腕を掴まれていた手は簡単に離れ、私は数歩エドから離れながら口を開く。





「ほんと、大丈夫だから・・・・

ごめんね、整備の途中だったんでしょ?・・・・・・・・帰っていいよ」



最後の言葉はエドの目を見て言うことが出来なかった。


本当は一緒にいてほしい・・・・


私だけを見てほしい・・・・


でもそれは私のどうしようもない我が儘で・・・・


エドを困らせることは分かりきっていて・・・・




「じゃぁね・・・」



私は目を逸らしたままそう言うと、家に向かって歩き出した。


いや、歩き出そうとした・・・・






グッ・・・




「きゃっ・・・」



突然強い力に掴まれ、思わず驚きの声が出る。


痛みに堪えて振り返ると、そこには無表情のエド・・・・


私は思わずそのエドの表情に息を呑んだ・・・


こんなエドを見るのは初めてだ・・・・






私が何も言えずにいると、エドが私を掴んだまま口を開く。




「おまえが何考えてるか分かんねぇ・・・」




その言葉が妙に胸を抉る・・・・


私は一瞬悲しみに顔を歪めたが、小さな声で言い返す。





「エドには分からないよ、私の気持ちなんて・・・」




小さな声だったが、きちんと聞こえたのかエドが顔を顰めて口を開く。




「言わなきゃ分かるわけねぇ〜だろ?」




「言っても分かんないよ!」





自分でさえ手に負えないこの気持ちを、エドに分かるわけない!


私のいきなりの叫びに、エドは驚いたような顔をしていた。


しかしすぐにまた顔を顰めて口を開く。






「決め付けんなよ。

・・・・俺は・・・・ マイ が思ってるよりもずっと、 マイ のこと見てんだから」




エドのその言葉に、カァッと顔が熱くなった。


でもそれと同時に感じる胸の痛み・・・・


どうしてそんな事言うの?


もうヤダ・・・・・・


私にはエドの気持ちの方が分からないよ・・・・







「 マイ ?」



俯けた私の顔を覗き込むようにして、エドがそう呼びかけてくる。


私は思わずその呼びかけに顔をあげ、気付いたときには口を開いていた・・・・




「辛いの!辛いのよ!エドとウィンリィが二人で笑い合ってるのが!

昔はこんなんじゃなかったのに・・・・

今では辛くて悲しくてしかたがないの!!

何でこんな・・・・・・・私だけ見てほしいって思っちゃうのよ!!!」




それだけ言うと、私は再びその場にしゃがみ込んでしまった。


エドの顔がもうまともに見れない・・・


呆れられたかもしれない・・・・


そう思うだけで胸がギリギリと締め付けられるような感覚に襲われる。





(逃げ出したい・・・・)




そんな考えが頭を過ぎったその時・・・・





「ほら、言わなきゃ分かんねぇーだろーが」




ギュッと抱きしめられる感覚と共に、耳元から聞こえるその声・・・・






「・・・・・エド?」



わけが分からなくて、今度こそ本当に理解ができなくて・・・


私は呆然と口を開いた。


すると、今までに聞いたことのないほどの真剣みを帯びた声が耳に届く。






「俺もおまえに俺だけを見てほしい。 マイ が好きだ」





「 わかったか?言わなかったら分かんなかっただろーが! 」という苦笑混じりのその言葉に、私はやっと頭が現状に追いついてきて理解すると共に堪えきれずに涙が溢れ出した。


そしてエドの胸の中で何度も頷く。


そんな私の頭を何度も優しく撫でながら、エドが耳元で囁いてくれた・・・







「 マイ ・・・・愛してる」







あなたにはわからない・・・・


どんなに私の心がその一言で軽くなったかなんて・・・・








「私も・・・・エドのこと愛してる」






そして、私にも分からない


どんなに私のこの一言がエドの胸に響いたかなんて・・・・







でも、これからはきっと・・・・・


二人で分かり合っていけるはず・・・・




私は微かに微笑んだ・・・・



















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