この距離がちょうどいい
マイとの電話を終えると、ちょうど資料の閲覧希望者がやって来た。
二言三言言葉を交わして、リストに書き記された書類を集めるのを手伝う。
前年度との銃器類の増減を調べなければならないらしい。
流れでそのまま手伝い始め、終えたと礼を言われてその背を見送った頃には既に窓から見える空には星が見えていた。
時間を見ればあれから数時間経っていたのかと軽く驚く。
そして本来の目的を思い出し、先日問答無用で置いてきた書類の回収をするため執務室へと向かう。
廊下を行き交う人の姿は疎らだ。
昼間見た光景との余りの差に軽く苦笑が浮かぶ。
目立った混乱が起こったという情報も聞いていないのに忙しなく行き交う人々の姿。
あれはただたんに、こんな日にまで残業などしてたまるかという決意が込められた足取りだったに違いない。
その証拠に行き交う人々の中には明らかに足取りの重い者も数名見受けられた。
あれはきっと年末年始をマズイコーヒーと共に司令部で迎える事が決定事項の奴らだったんだろう。
顔に諦めの文字が浮かんでいた・・・
その光景を思い出してまた苦笑しながら、目当ての扉の前でノックを2回。
こんなもの形式なだけで、うちは返事も待たずに扉を開く。
「おや、私に会いに来てくれたのかな?」
「んなくだんねー口叩けるって事は、もちろん書類は出来てるってことだよなぁ?」
執務室内にはロイ・マスタング殿ただ一人。
ハボ兄達はこの寒い中外の見回りや持ち場に駆り出されたんだろう、ご苦労なこった。
「ちょっと待っていてくれ。
後数枚なんだが・・・」
「あーーー別にもうゆっくりでいいぜ?
それどうせ年明け処理の書類だし、お前以外はちゃんと提出までに余裕持って仕上られてるからな。
回収もそれで最後だしな」
「・・・・そうか、なら今年の君の残り時間はこのまま私が独占できるということかね?」
「寝言は寝て言え。
つーか手を動かせ手を」
うちはそれだけ呆れたように言うと、そのまま執務室のソファーに音を立てて座った。
そりゃーもう疲れを沈めるようにドッサリと柔らかな背もたれに身を預けて。
そのままチラリと目を時計へと向ければ日付が変わるまで1時間ちょっと・・・
「・・・・・・・・・・・・やっぱりその書類、さっさと片付けろ」
うちのポツリと呟くように発した言葉。
「もちろんだ」
ペンを走らせる音と、紙を捲る音。
触れ合えるほど近いわけではないが、同じ空間を共有出来る距離。
意地を張る必要もなく、でもお互いを感じられる距離。
たぶん、うちらにはこれくらいの距離がちょうどいい。
結局何だかんだ言いつつも、このまま年越してんだろうなぁとぼんやり窓の外へと目を移した・・・
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