08 一人空回り
マイとエドのアルの存在完全無視の小話
<色付け、中央編>でのある夜のやり取り
「もぉ、エド!ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ?」
そう言ってパタパタと駆け寄って来たマイは、俺が肩に掛けたままにしていたタオルを手に取った。
そしてすぐ傍のベッドへと半ば無理やり俺を座らせると、笑みを浮べて後ろへと回り込んでくる。
「私が乾かしてあげる」
「別にいーって。
寝るまでには乾くんだしよ」
「その前に冷えちゃうでしょー?」
俺の無頓着振りに唇を尖らせるマイの様子に思わず苦笑する。
こんくらいで風邪を引くような体の鍛え方はしていない。
マイもそれは分かっているんだろうが、心配している気持ちも本当なんだろう。
解読作業が難航する中、マイのこういう真っ直ぐな気持ちに癒される・・・
抵抗しない俺に、マイの手がそっと髪へと伸ばされた。
まずタオルで髪をある程度拭かれると、次に櫛で髪を梳かれる。
その手つきは優しくて、思わずそっと目を閉じた。
しかしすぐに後ろから微かな笑い声が聞こえて少し振り返る。
「何だよ?」
「ん?ん〜〜〜こうしてると何かリゼンブールの時と似てるなぁって」
「リゼンブール?」
マイの言葉に一瞬何の事だと首を傾げた。
しかしすぐに機械鎧の修理中に、髪を結んでもらった時の事だと思い当たる。
確かにあの時もこうやってベッドに座らされ、マイが後ろから櫛で髪を梳いていた。
そして前の世界で知ったらしいエドワード・エルリックじゃなく、マイはちゃんと俺自身を好きなんだと自覚して・・・・
それで・・・始めてマイとキスをしたのもあん時で
(って何まで思い出してんだ俺!!!)
心の中で思いっきり叱咤するが、解き始めた記憶がそう簡単に止まるはずもなく・・・
傾けられる体に、薄く染まる頬。
早くなる鼓動に、熱くなる体。
素直に感心出来るほどリアルに今でも思い出せる。
(って、だから思い出してどーすんだよ!!!)
思えばあの時から進展はない。
なのに距離だけは近付いて、今では同じ部屋で寝起きさえしてる・・・
意識してるのは俺だけかと虚しくなったり、いっそ一度押し倒してみるかと自棄気味な考えが浮かんできたりもする。
それでも、近くにいれば向けられる好意は確かなものだと安心したり・・・
「はい、エド!髪けっこー乾いたよ」
そう言って向けられる笑顔にとりあえず苦笑を返した。
(・・・・・・先は長いってのだけは確かだな)
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