甘く痺れるかなしばり


「あっ、マイ来たわよ!」




「っ!」









リオの声にビクッと体が震える。


しかし一向に振り向こうとしない私に、リオは見てみろと抱きついている方の腕で促し始めた。


そんなリオの態度に負け、仕方なく私は腕から離れて振り返る。






そして・・・










(・・・・・うわぁ)









思わず感嘆の溜息を吐いてしまった。


目の前に立つのは、金の髪に金の瞳の男の人。



それはまるで・・・










「・・・・・王子様みたい」







「ちょっ、マイ?」








驚いたようなリオの声にハッと我に返る。


気付いたら口から出ていた言葉。


かぁっと顔に熱が集まるのを感じた。







「ごっごめんなさい!!

わっ私、その」






自分でも声に出してしまったのが信じられない。


慌て過ぎて、何を言えばいいのか分からなくなる。


そんなアタフタする私に、目の前の彼は口端に笑みを浮べた。







「さすがに初対面でいきなり王子様なんて言われたのは始めてだな」




「・・・ごっごめんなさい」




「まぁ、でも・・・俺が王子ならもちろん姫はマイなんだろ?」





「えっ?!」







思いもしなかった言葉を投げかけられ驚く。


それに名前・・・


男の人に名前を呼び捨てにされた事なんてそうなくて途惑う。


そんな私の気持ちも構わずに、目の前の彼は視線でソファーを示した。







「隣いいか?」




「えっ?!

う、あっ・・・・・・はい」







正直あまりよくない。


緊張に先ほどの羞恥までプラスされて、もういっぱいいっぱいな状態だ。


しかしさすがに嫌だとは言い難いし、一応呼んでしまったのはこちら・・・


身を固まらせて俯く私の横に、彼は苦笑を浮べて座った。


近いその距離に思わず助けを求めるようにリオへ手を伸ばそうとする。


しかし気付けばリオとハボックさんはソファーの逆端近くまで移動していた。


しかもリオは視線を向ける私にヒラヒラと手まで振っている。







(うっ裏切り者・・・)







もう本当に泣いてしまいたい・・・



もしかするとリオは私で遊んでるのかもなんて卑屈な考えまで浮かんできてしまう。


その時・・・







「マイ」




「っ!」







急に近くから名を呼ばれ、驚いて肩が跳ねる。


心拍数がとんでもない事になっていそう・・・


それでも何とか視線を向けると、口端に笑みを浮べた彼の姿。








「どうした?」




「・・・・・・なっ、名前・・・私の、名前」




「名前?マイであってるよな?

さっきそう呼ばれてたろ?」







リオを示しながらの問いに、頷いて肯定する。


確かに名前はマイであっている。


間違ってはいない。


けれど、私が言いたいのはそんな事ではなかった。








(お願いだから、呼び捨てで呼ばないでぇ・・・)







同年代の男の人には全くと言っていいほど呼ばれたことは無い。


だからなのか、変にドキドキする。


それはもう尋常じゃないほど・・・


しかし目の前の彼はそんな私の気持ちには気付かずに口を開く。








「俺はエドワード。

エドでいいぜ?」







そう言って私を見るその目が、試しに呼んでみろと言っている気がする。


・・・きっと気のせいだ、気のせいであってほしい


そう思おうとする私の心とは裏腹に、彼は何かを待つようにジッと私を見る。







(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜うぅ・・・)







そして結局はずっと向け続けられる彼の視線に耐え兼ねて私は小さく口を開いた。







「・・・・・エドさん」




「違う」




「えっ?!」







間違えたの?!


先ほど聞いたばかりだ。


さすがに間違えていないはずだけど・・・


でっでも本人が言うんだから違うのかな・・・


もしかして聞き間違えたんだろうかと不安になる。


しかし彼はそんなオロオロする私に、苦笑交じりに言葉を続けた。








「さん、はいらねー。

エドでいいって言っただろ?」




「えっ・・・・」




「ほら、やり直し」









そしてまたしても向けられる真っ直ぐな視線。


名前を間違えていなかった事にホッとする時間も無い。


男友達がいなかった私が、男の人を名前で呼んだ事があるわけない。


その上呼び捨てなんて・・・・・


それでも待ち続ける彼に、私は意を決して口を開く。








「・・・・・・・エッエド」




「エッエドじゃなくて、エド。

どもるな、もう一回」




「っ〜〜〜〜〜〜エド」









こうなったら自棄だ。


早くこんな時間からは開放されたいと、思い切って言う。


すると彼は、エドは、実に満足そうな笑みを浮べた。



そして・・・・








「Yes, my princess・・・」








囁きに反応すら出来なかった。


スッと持ち上げられた手に、そっと口付けられる。


そしてそのまま見上げられる視線に呼吸さえ止まって・・・



















わざとらしく上げられた口角に、軽い眩暈を覚えた





(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜はっ離して、下さい)


(もう一回ちゃんと名前が呼べたらな?)



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